【第2回】情報処理を効率化する災害対策本部の空間設計災害発生! 組織の危機管理は(1/2 ページ)

災害時に企業や組織の中枢となる場所が「危機対応センター」だ。効率的なオペレーションを実行する上で、どのような場所作りが必要なのだろうか。

» 2011年05月31日 08時30分 公開
[牧紀男,京都大学]

 前回、危機対応の鍵は「現状把握」にあり、適切に現状把握を行うためには、(1)どんな被害が発生しているのか、企業や組織の活動にどのような影響が発生しているのかという「状況把握」のための情報、(2)発生している危機に対して対応するための資源がどれだけあるのか、どういった対応を行っているのかという「資源配置」についての情報が必要であると述べた。

 今回は、効率的に現状把握を行うための方法について説明する。

資源配置の情報が少ない

 状況把握には、従業員やその家族安否、自社工場や事務所の被害、道路の通行障害、取引先の被害といった情報が必要である。これらは、どの組織においても必要性は認識されており、通信施設の障害などが原因で収集に時間がかかる場合もあるが、危機事案が発生すると確実に収集、発信される。行政の危機対応においても、被害情報については災害発生直後から収集が行われ、マスメディアや政府のホームページを通して発信される。

 国レベルの情報については、通常の災害であれば内閣府防災担当や、消防庁から発信される。このたびの東日本大震災では、内閣総理大臣を本部長とする緊急災害対策本部が、災害対策基本法が施行して初めて設置され、官邸(http://www.kantei.go.jp/saigai/)のホームページから各種情報が発信されている。地域ごとのより詳細な情報を知りたい場合は、各都道府県・市町村のホームページを活用するといい。東日本大震災では地方自治体のホームページへアクセスが集中したことから、民間企業によるミラーサイトの立ち上げなどの支援があった。

 一方で、危機時の資源配置に関する情報についてはあまり重視されていない。被災者にとっては、どれだけ被害が発生しているかよりも、どのような対応が行われているのかが情報として重要である。企業においては、被害情報に加えて、復旧見込みの情報についても発信していくことが求められる。しかしながら組織の危機対応マニュアルを見ると、資源配置について記載されていない、たとえ記載されていても具体的な方法が示されていないということが多い。

情報共有に有効な大部屋

 では、具体的にどうすれば資源配置に関する情報を効率的に収集できるだろうか。答えは非常に簡単で、「危機対応にかかわる人々が同じ部屋で執務をする」ことである。具体的には、日本のオフィススペースのような大部屋で仕事をするということである。

 大部屋で執務する利点は、誰かが課長に注意されている、クレーム対応の電話に長く時間がかかっているといった状況がメンバー同士で自然と共有されるということにある。危機対応だけでなく、通常時の業務においても、大部屋で仕事をすることが情報共有する上で有効に機能することが認識されており、部局をまたいで1つのフロアで執務をする企業もある。その際たる例がマスコミのオフィスであり、編集作業を行うデスクを囲むように各部局の記者の机が配置され、全ての記者が同じ部屋で作業を行っている。欧米のオフィスは、個室、もしくはパーティションで仕切られた空間となっているが、危機対応時は関係する組織が大部屋に集まって危機対応を行っている。

米国の危機対応センター(Emergency Operation Center) 米国の危機対応センター(Emergency Operation Center)

 日本のオフィススペースは危機対応を行う上で理想的な空間構成となっているが、通常時と危機対応時で異なるのは、情報共有すべき部局が通常業務より拡大するということである。通常の問題対応であれば1つの部局だけで対応可能だが、大規模な危機事案の場合、企業全体、さらには外部組織とも協力して危機対応を行う必要がある。従業員・家族の安否確認については人事・総務部局、各工場の状況については生産関連部局、取引先の情報については調達・営業部局、さらにはサプライチェーンを構成する外部企業といったように、危機対応を行う場合、通常は同じ場所で仕事をしていない組織も共に事案に対処する必要がある。

 しかしながら、多くの組織では、危機対応センターにいるのは被害情報を収集するための総務系職員のみで、実際の対応にあたる職員は平常時と同じ座席で執務するという体制をとっている。各部局の対応状況については、組織のトップが出席して1日に数回実施する対策本部会議で情報共有している。その結果、被害情報についてはリアルタイムで共有できるものの、資源配置については共有する仕組みを持たず、迅速かつ適切に危機対応への意思決定ができないという問題が発生している。危機事案に効果的に対処する場合は、関係するすべての部局が一堂に会すような体制や場所を設けることが重要である。

 こうした場所は危機対応センター(Emergency Operation Center、EOC)と呼ばれる。ある自治体では、かつて危機対応時に資源配置に関する情報がリアルタイムで収集できなかったという反省から、危機対応センターのレイアウトを大きく変更したという事例がある。以前は被害情報を収集する部局のみが危機対応センターに配置されていたが、危機事案の対処にあたる部局も危機対応センターに配備するようレイアウトを大きく変更した(図1)

図1 自治体の危機対応センター(危機対応前、危機対応を経た変更後)(出典:林春男、牧紀男他、2008)
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