【第3回】中国マーケットをいかに攻略するか中堅・中小企業 逆境時の経営力(1/3 ページ)

利益を追い求めて中国市場に進出する日本企業は後を絶たない。一方で、その多くは道半ばにして撤退を余儀なくされている。果たしてどこに原因があるのだろうか。

» 2011年06月02日 08時00分 公開
[美谷昇一郎,日本総合研究所]

 少子高齢化による人口減少とこれに伴う消費の落ち込みなどを背景に、日本国内の消費市場が低成長時代へと突入していく中、企業経営者は今後、自社の成長戦略をどこに求めるかが大きな関心事である。そうした中、中国やインドをはじめとする新興国へ新たなマーケットを求めて進出する企業が増加している。とりわけ2桁近い経済成長を続ける中国市場は、日本から最も近い巨大市場として日本企業の進出が依然として堅調である。

 本稿では、この巨大な中国市場をテーマに、中堅・中小企業が海外マーケットを攻略する上で持つべき視点や留意点を示したい。

大企業の成功事例は必ずしも真似できない

 海外市場での成功例として、韓Samsungや米P&G(Procter & Gamble)がよく取り上げられる。Samsungは中国市場を中心にセンスの良いハイエンドブランドとして、デジタル家電分野で急成長している。その成功要因は、現地人によるマーケティングに基づいた製品開発と、本国の最新生産技術を用いた現地生産によって、地域消費者のニーズと所得水準に合わせた製品を低コストで生産できるビジネスモデルを構築したことにある。

 また、地域ごとに本社からグローバルエリアマネジャーを派遣し、その土地に根を下ろした生活をさせることで、生活習慣や文化、流行などへの理解を深め、本社での製品開発やマーケティング戦略に生かすことが可能になる。

 P&Gでは、中国などの新興国市場に対して、圧倒的な企業体力を武器に巨額のプロモーション費を投入し、いち早く市場浸透度を高めるとともに、現地トップクラスの優秀な人材を確保し、積極的に経営の現地化を進めてきた。

 これらの成功例は、グローバル感覚のある社内人材を豊富に抱え、資金力に余裕があることなどで可能になる。従って、そのまま中堅・中小企業に当てはまらない点が多い。現実に、国内業務が手一杯で海外に派遣する人材の余裕がない、莫大な広告宣伝費を投じる資金的余裕がないという中小企業が大半だろう。

中国市場進出の際に持つべき視点

 では、人材や資金が十分でない中堅・中小企業が海外事業を進める上で、どのような視点を持って望んだらよいだろうか。既に海外市場へ進出しているものの、販路を開拓できなかったり、地場ブランドとの泥沼な価格競争で利益が確保できなかったりして海外事業に行き詰まりを感じている企業は多い。それらを踏まえ、海外事業におけるポイントとして次の4点を挙げる。

(1)他人の意見でなく、自らの肌感覚を信じること

(2)日本の常識や成功体験を払拭すること

(3)現地スタッフとの丁寧なコミュニケーションを心掛けること

(4)現地人や現地文化に対する謙虚な気持ちを忘れないこと

 以下では、それぞれについて詳しく解説する。

他人の情報でなく、自らの肌感覚を信じること

 日常の業務が多忙でなかなか現地視察する時間が取れないため、海外事情に詳しいコンサルタントに話を聞いて、その内容を基にさまざまな検討を進めてしまうことがあるのではないだろうか。

 以前、あるスーパーマーケットの中国出店検討に際し、出店候補地周辺の商圏調査を行った。その際、4万件を超える膨大なヒアリングデータを収集したが、顧客のプロジェクト責任者は、別途、半径5kmの想定商圏を自ら自転車で回って状況を把握し、出店可否の確信を得たそうである。海外は国内と違い、調査会社などの情報だけで検討を進めてしまいがちだが、百聞は一見に如かず、他人からの情報より自分自身の肌感覚を大切にすべきである。

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