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» 2011年07月02日 08時00分 公開

萩原栄幸が斬る! IT時事刻々:システムエンジニアとしての一言――SE今昔物語 (2/2)

[萩原栄幸,ITmedia]
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「アジャイル」って何?

 昨年(2010年)のこと、筆者はある東証1部上場企業の基幹システム構築における「お目付け役」を担当していた。RFI(情報要求書)、RFP(提案依頼書)などからソフト開発を任せる企業を選択する際に、適切な判断ができる体制にしたいということで、筆者が呼ばれたそうだ。

 要件設計フェーズには、ユーザー側としてさらに数人のSEが必要になる可能性があったため、急ぎ複数のソフト会社に、「要件定義での経験が豊富な上級SEがほしい」と打診し、約30人と面談を行った。ほとんどがこちらのニーズに沿った「上級SE」という触れ込みであった(一部はそのサポート役としての位置付けとして、チーム編成の中に組み込んであった)。筆者は全員の「上級SE」と面接したものの、非常に驚くべき出来事が幾つもあった。

「普段はどのような情報源を用いて勉強していますか?」

 何と一番に多い回答は、「特に勉強していない」「仕事を通じて勉強しているので、特別に時間を確保する必要性がない」というものだった。筆者の経験からみれば、とても信じられないことである。スキルが上がるほど、勉強をしなければ技術や世間の速い変化になかなか追いつけるものではないはずだ。ごく一部の「天才」は勉強する必要がないのかもしれない。しかし、技術者が一流になるためには絶対に努力を怠るべきではないと筆者は考える。それは30年前でも、現在でも、30年後も同じだ。

 優秀な人間は組織の中では“便利屋”的な使われ方をされてしまう実態や、あまりに多忙なので時間が取れないということもある。しかし、目の前の忙しさを理由に勉強を怠ってしまった一部の友人は、例外なく一流の技術者になるという道を諦めていった。この面接では、それがほぼ全員――しかも単価的には「上級SE」と言われる――だったことに驚いた。現在では努力しなくても上級SEになれるのだろうか。疑問ばかりが浮かぶ。

「アジャイル開発手法について知っていることを述べてください」

 ソフト開発企業を最終選定している中で、一部の企業が「アジャイル開発」を提案してきた(その企業は独自の開発手法として、アジャイルに近い要素を持つが、違うものであると主張していた)。筆者が理解している「アジャイル開発」の知識だけでは不足しているのかと思い、密かに急いで専門書を読み、セミナーも受講して、理論武装をした。それと同時に現役の上級SEならどういう考えを持っているのか、ぜひ知りたかったのである。

 しかし一連の回答は、「知りません。アジャイルとは何ですか」「名前は聞いたことがあるが、私の会社ではしていないので、詳しくは分からない」「一応のことは知っていますけど、当社はもっと堅実なウォーターフォールでの開発なので……。長所と短所について聞かれても分かりません」。「一応知っている」というレベルにすらない。

 結局アジャイルについて、取りあえずはその言葉の意味を理解していると確認できたのは2人だけだった(それでも筆者が理論武装する前に理解していた内容よりお粗末だったが……)。その昔、第二次世界大戦が勃発した際に、米国では急いで日本語講座を軍の中で準備したのに対し、日本は「敵国の言葉は一切使ってはならぬ」としていたといわれる。野球のストライクが「よし1本」と言い換えられていた。先の質問に対してアジャイルの長所・短所や基本的な考え方の理解もないのに、彼らはなぜ自分のところの開発手法がいいと主張できるのだろうか。「敵」を知らなければ、「味方」の状況を判断できるはずもない。

「今、あなたのプロジェクト(もしくは直近で完了したプロジェクト)の中で、一番に悩んでいる(もしくは悩んだ)ことを1つ話してください」

 こういう質問なら、SEにとって回答しやすいだろうと考えていた。実際には違っていた。面接したほとんどのSEが、「プロジェクトリーダーとしての進行管理が一番大変だった」と回答したのである。もしかして、そういう想定問答集が存在するのかと思うほど、似た回答ばかりだったのだ。進行管理という表面的なものより、メンタル面の回答を期待した筆者がばかだったのであろうか……。

 それだけならまだよいとして、さらに驚いたことがあった。「どういうフェーズでどう進行の遅れが発覚し、それをあなたはどう乗り越えましたか。また、その出来事の後にどういう改善・工夫を実施しましたか」という質問をした。ところが、筆者が聞く限りまともに返答できた人はほとんどいなかったのである。

 時代のキーワードと思える「クラウド」の思想や論理的展開、また、「スマートフォン」の業務システムの利用法など、さまざまな技術テーマがある。上級SEとの面接を振り返ると、彼らとはまるで会話にならないばかりか、専門学校生の方が詳しいぐらいである。現役のSEなら、「せめて基本的な理屈くらいは勉強しておけ」と言いたいくらいだ。

 あくまでたった30人のSEと面談をしただけなので、全国にいる何万人、何十万人というSEは、本当は違うのかもしれない。しかし、筆者が直面したSEの実態は10年前のことではなく、1年前のことである。一応は即戦力として、しかも要件定義から実績を積み重ねてきた「上級SE」という条件による面接での出来事なのだ。

 もし、自分自身の状況すらきちんとつかめない人間が「プロジェクトリーダー」と称して仕事をしているのであれば、クライアントにとってはたまったものではない。筆者が見たSEの実態が例外であることを願ってやまないのである。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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