「エシュロン」ってご存知ですか?萩原栄幸が斬る! IT時事刻々(1/2 ページ)

2000年ごろに世界で関心を集めたのが「Echelon(エシュロン)」と呼ばれる謎の巨大システムである。国家レベルと言われるこのシステムはどのようなものか。

» 2011年08月06日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

本コラムは、情報セキュリティの専門家・萩原栄幸氏がITとビジネスの世界で見落とされがちな、“目からウロコ”のポイントに鋭く切り込みます。


 もう10年も前になるが、2000年ごろに話題に上がったものに「Echelon(エシュロン)」があった。当時は米国などの文献を読んでびっくりしたものであった。しかし、最近はどういうわけかEchelonが話題になることがない。筆者のような一介の市民にはよく分からないが、何か不気味なものを感じてしまう。IT技術者に聞いてもほとんど知られていないこのテーマに、今回はあえて挑んでみたい。

 世の中には触れてはいけない「タブー」となっている話題が幾つかあるが、その1つがEchelonだろう。なお、筆者はこの分野の専門家ではない。以下に記載したものは、独自に見聞きしたり、過去に報道された内容などを踏まえたものであり、読者の中には不満を抱く人もいるだろう。しかし、専門家ではない筆者がこの問題を提起することで、多くの人にある意味での「問題意識」を持っていただきたいと考えている。

Echelonとは

 Wikipediaによると、Echelonは次のように紹介されている。

エシュロン(Echelon)は、アメリカ合衆国を中心に構築された軍事目的の通信傍受(シギント)システムで、同国国家安全保障局(NSA)主体で運営されていると欧州連合などにより指摘されているものである。ただしその存在がアメリカ合衆国自身によって認められたことはない。


 簡単に言えば、インターネットや電話など世界のあらゆる通信を傍受する巨大なシステムである。英米同盟(UKUSA協定)で世界に点在しているこの巨大なネットワーク網の維持管理は、米国と英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国によって行われているという。

 「サンデープロジェクト」など2000年ごろにEchelonを取り上げたテレビ番組の内容を掘り起こして(筆者は番組内容を日誌にメモしていた)みると、当時はEchelonにまつわる幾つかのエピソードが紹介されていた。雑誌や新聞、インターネットでもそれらの話題を見ることができる。

(1)1998年、ドイツの風力発電メーカーEnerconは米国進出を図るが、そこで彼らは米国のライバル会社が既に類似の特許を取得していることを知る。後の調査で、研究開発部門と製造部門の電話回線がEchelonに盗聴されていたことが判明した。Enerconは一般の電話回線を外し、専用回線を使用することで対処した。重要なデータは、書類として直接手から手へ渡されるようになった。

(2)サウジアラビアの旅客機の受注商戦では米Boeingが、アマゾンの熱帯雨林監視システムの商戦では米Raytheonが、それぞれEchelonで盗聴した情報を利用して先行していた欧州のメーカーに競り勝った。

(3)1990年にドイツのDer Spiegel誌は、NSAがインドネシアと日本のメーカーとの間の2億ドルの成立間際の取引に関するメッセージをEchelonで盗聴したと暴露した。当時のブッシュ大統領が米国メーカーを代表して交渉に干渉した結果、契約は日本と米国で分割された。

(4)1994年、米中央情報局(CIA)とNSAは、ブラジルが購入を希望したレーダーシステムに関するブラジルの官吏とフランス企業Thomson-CSF(現:Thales)の電話を盗聴した。Raytheonは競合会社であったが、盗聴から作成された報告書が転送された。

(5)1993年9月、当時のクリントン大統領はCIAに対しゼロエミッションカーを設計している自動車メーカーに対するスパイ活動を要請し、この情報を米国3大メーカーであるFord、GM、Chryslerに転送した。

(6)1997年、クリントン大統領がNSAと米連邦捜査局(FBI)にシアトルで開催されたAPEC会議において大規模な監視活動をするように命じ、300以上のホテルの部屋に盗聴の準備がされたと、Insight誌が報じた。これは交渉中のベトナムにおける石油、水力発電契約に関する情報のためであり、この情報は契約獲得の競合下にあった民主党寄付企業に提供された。

(7)1995年11月15日付The New York Timesは、ジュネーブで開かれた日米自動車交渉において、NSAとCIAの東京支局が日本側交渉団を盗聴し、詳細を米国貿易代表のミッキー・カンターの交渉チームに提供していたと報じた。

(8)サッチャー英首相はかつて、2人の閣僚が反対派に回ったと疑った。首相の依頼を受けた英国諜報機関がこの大臣の盗聴を依頼した。

(9)ダイアナ元妃もターゲットにされていた。

(10)1990年春、EU議会にEchelonに関する詳細な報告書「盗聴能力2000」が提出された。欧州では騒然となり、フランスでは国会の場でEchelonが追及された。2月23日の議会で法務大臣エリザベート・ギゴウ女史はこう宣言した。「Echelonは経済スパイや競争相手の監視に使われているようだ。よってわれわれとしても特別な警戒を必要とする」

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