2人のスティーブの差? それは「能力」だろうね――米Googleのシュミット会長Dreamforce 2011 Report

米国サンフランシスコで開催されたDreamforce 2011(米salesforce.comの年次カンファレンス)では、Googleのエリック・シュミット会長がゲストとして登場。SunとMicrosoftの戦いやAppleの強さ、そして次世代のビジネスリーダーに求められる要素について、マーク・ベニオフ相手に熱弁をふるった。

» 2011年09月05日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

ベニオフ あなたはSun Microsystems(Sun)創設時の“最初の100人”だった。素晴らしいビジョンを持っていた。スコット・マクニーリー、ビル・ジョイ、ジェームズ・ゴスリンといった名だたるメンバーと仕事をしていた。その頃について話してほしい。

シュミット あの時代が、現在の“プレビュー”だった。SunはUNIXの“最高の体現”をしたけれど、80年代は誰もが特定のプロトコルに縛られ、柔軟さはなかった。われわれが提唱したネットワークコンピューティングのビジョンにはその束縛はなかったけれど、実現するテクノロジーが存在しなかった。でも今は、クラウド、そしてソーシャルで当時のビジョンを実現できる。素晴らしいことだ。

Google会長のエリック・シュミット氏(写真=右)。ベニオフ氏とは数十年にわたる付き合いだという

ベニオフ ネットワークコンピューティング以外に、Sunが示した未来は?

シュミット オープンシステムのモデルだ。当時、ソフトウェアは使いにくく、そして高くついた。オープンなWebプラットフォームはSunが発明した原則であり、Sunの遺産でもある。Javaが起こした革命もその1つ。Javaは、それまで複雑を極めていたエンタープライズ分野のプログラミングを容易にした。

ベニオフ その後、SunはMicrosoftとの戦いに突入したが。

シュミット 成功する企業は、同時に傲慢になるという欠点を持つ。Solarisよりもパワフルで安価なプラットフォームを投入するライバルが登場するなんて、想像もしていなかったんだ……。

ベニオフ わたしならまず、プロダクトを無償提供しようと考える(笑)

シュミット 社内ではSolarisのコストについて大ゲンカをしたよ。でもPentiumのサーバと戦える価格にはできなかった。Sunはボリュームを追うビジネス(注:付加価値を高めたハードウェアと、ソフトウェアライセンスを売るモデルの意)をしていたから、マージンを切り詰められなかった。今から思えば、その時に戦略を切り替えるべきだったかもしれない。

 でもその時“ITバブル”が起こってしまった。本当は解決すべき問題があるのに、すべてがうまくいっているように見えていたんだ。バブルは需要を人工的に高め、古いビジネスモデルを延命してしまった。

ベニオフ あなたはその後NovellのCEOを経て、今はGoogleの会長だ。Googleは楽しい?

シュミット 人生は短い。だから好きな人、楽しい人と働くべきだ。楽しければビジネスの生産性は上がる。Googleには「すべてが可能になる」という実感があるから好きだ。アイデアやアルゴリズムを必ず実現できる、という実感とともに仕事ができるんだ。

ベニオフ Sunだってそうだったのでは?

シュミット Sunは、2、3年ごとにようやく新しいテクノロジーをリリースするという、クラシックなコンピュータビジネスをしていた。でもWebは違う。Webは本質的に柔軟だから、毎日ブラッシュアップしなければならない。従来のエンジニアリングの方針とは全く違う。

ベニオフ Googleの楽しいところはもう1つあるのでは。それは「Microsoftの時間を止めた(注:ビジネスで優位に立った、の意)」こと(笑)。

シュミット 古い会社が新しくなることは難しい。Microsoftにもパイオニアはいるけれど、自身の知識が邪魔をする。そして会社にあるリソースも邪魔をする。抱え込んだ顧客を満足させるコミットメントも必要だ。こういった状況で、新しいテクノロジーを次々と生み出すことは困難だ。それにMicrosoftは自社のプラットフォームの存続を前提にしているが、Googleはそうではない。新しいコンピュータテクノロジーを提供し続けている。

 ここで言いたいのは、古いコンピューティングモデルに拘らず、新しいテクノロジーが「機能する」と信じることが大切だということ。例えばsalesforce.comだって、IPOする前は「あんなのはオモチャだ」と思われていたが、その思い込みは間違いだったことが示された。エンタープライズ分野でクラウドやソーシャルが機能するかどうかについて迷っている人が多いけど、わたしは「機能する」と考えている。古いクラサバモデルに囲い込まれず、最新のアーキテクチャを使い、想像もできないような革新的なエンタープライズシステムを作ろうじゃないか。

ベニオフ 確かにGoogleは素晴らしいモデルシフトをしている。サーチエンジンだけに拘らず、Google AppsやAndroid も成功している。

シュミット わたしの「エリック最適化モデル」を紹介しよう。それは、プラットフォームにとって重要なのは「動作すること・ライセンスモデルではないこと」の2点だということ。この2点がインセンティブになり、そしてインセンティブが魅力的なら、プレイヤーはエコサイクルにとどまってくれる。

 スティーブ(注:アップルの前CEO、スティーブ・ジョブズ)は史上最高のCEOだった。今後100年に渡り、彼ほどの人物は登場しないだろう(聴衆は大拍手)。Appleの素晴らしい点は、新しいプラットフォームに移行する際、正しく移行できることだ。

ベニオフ ではバルマーがうまくいかないのはなぜ? 2人のスティーブ(注:バルマーのファーストネームもスティーブ)はどうしてこれほど違うのか。

シュミット まず能力が違う(聴衆は大拍手)。でも人の話はやめよう。Microsoftという組織に対する話として聞いてほしい。

 Microsoftはソフトウェアのライセンスをコントロールして、ハードウェアのイノベーションを阻害した。消費者には目を向けず、業界の構造を支配することに腐心した。それに対してAppleは「消費者が抱える問題を解決すれば売り上げが伸びる」と考えた。

 結果として、Microsoft製品の複雑さは途方もないことになってしまった。でもAppleのそれはシンプル。OSも、実はUNIXベースだからテクノロジーとしては複雑だけど、上手に覆い隠している。Micrrosoftの製品は複雑さが前に出過ぎている。わたしはエンジニアだから、複雑なソフトウェアをいじることも好きだけど、普通の消費者は違う。

 Facebookも消費者が何を求めているのかをよく分かっているから、ニーズに対しテクノロジーを当てているだけだ。この原則はエンタープライズ分野でも同じ。使い勝手が良くて簡単なものはすぐに広まる。「裏は複雑で表はシンプル」――これが重要だ。

ベニオフ 確かにザックは素晴らしいソーシャル革命を起こした。ではあなたが考える、最高のビジネスリーダーの要素は?

シュミット もうPCやサーバに可能性はない。これからはモバイルの世界が訪れる。わたしは「モバイルファースト」と言い続けている。今、Googleのトッププログラマーは、サービスを開発する際にモバイル版を最初に作る。ちょっと前は、PC用のアプリケーションを作ってから、オマケとしてモバイル版を作ったものだけどね。

 理由はシンプルで、最初にユーザーとつながることができるのは、PCではなくモバイルだから。次世代のビジネスリーダーは、モバイルサービスの中から登場するだろうね。

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