放射線測定器の「そもそも論」 どう利用すべきか萩原栄幸が斬る! IT時事刻々(1/2 ページ)

安価な放射線測定器では正しい測定が難しいことが明らかになった。今回は「正しく」測ることと活用について解説したい。

» 2011年09月24日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 今回は前回の題材の後編として、放射線測定器の「そもそも論」と安価な測定器の有効利用について提言したい。

正確な放射線測定値を求める方法

 国民生活センターの調査から、安価な放射線測定器では放射線を“正しく”測るのが難しいことが分かった。それでは、“正しく”測るには何が必要とされるのか。産業技術総合研究所の資料から読み取ることができる。

 「正確な値」を出すには、最低3つの要件が必要だ。

  1. 正確な計測器
  2. 計測器の正しい使い方
  3. 測定者の高い技能

 この3つがそろってはじめて「正しい値」が出てくる。特に今回の話題となっている安価な放射線測定器自体に信頼性を伴わなければ、どんな権威を持つ技術者であろうと、「真値」もしくはそれに近い値を見い出すことなど絶対にできない。前回の記事でも多数の読者からご意見をいただいたが、その中に「トレーサビリティ(追跡可能性)が確保された確かな機器の意味が良く分からない」という指摘があったので解説したい。

 「計測器の正確さは、正確な“標準”と比較(校正)すればわかります」――この言葉は産業技術総合研究所のWebサイトに掲載されているもの。まさしくその言葉通りで、その昔に学校で学んだ「メートル原器」や「キログラム原器」もこれである。メートル原器を見て、筆者は「これが1メートルです。計測器でこの長さを1メートルと表現できなければ正確な計測器とはいえません」と教わったものだ。

 「正確な標準」とは、「メートル条約」に基づいて国際相互承認協定で定められた「国家標準」である。日本の場合は、その頂点が産業技術総合研究所 計量標準総合センターであり、唯一の「国家標準」となっている。Webサイトにはこう解説されている。

最も正確なのは国家標準ですが、国家標準との比較によって正確さが確認された2次標準や、2次標準との比較によって正確さが確認された3次標準などとの比較でも、正確さの確認ができます。計測器の正確さをこのような比較の連鎖によって国家標準にまでつなげる(トレースできる)仕組みを、「トレーサビリティ体系」といいます。


 よって、計量標準総合センターが厳格な検査を行い、認定している2次標準や3次標準の民間事業者が検査して合格した機器が「校正済機器」とされている。故障、また、計測方法が指定された方法と異なる場合、測定者のスキル不足といった要因が除外されて、はじめて「真値」に限りなく近い計測が可能となるのである。

 詳細は本稿からやや外れてしまうので割愛するが、例えば放射線の場合は、「表面汚染測定」と「環境放射能・食品中放射能測定」ではそのトレーサビリティが異なる。それぞれの分野で「風評被害」に対応するために、測定方法などが公開されているのが実情だ。日本電気計測工業会では5月に「工業製品の放射能汚染を確認する方法について<風評被害を防ぐための測定方法のガイドラインを策定>」というプレスリリースを出している(プレスリリースのPDF)。

 そこには詳細な測定方法のほかに、「放射線測定器に求められる最低要求仕様」を示している。

  1. 測定器の種類
  2. 検出の対象
  3. 検出の範囲
  4. 校正

 3の検出の範囲では「少なくとも毎時0.1〜5マイクロシーベルトの範囲の1センチ線量当量率を検出できること」とあり、4の校正では「計量法認定業者の校正証明書、メーカー証明書、または所有者の自主検査記録により適切な校正がされていることが確認できること(1年以内に校正などが行われていることが望ましい)」とある。

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