放射線測定器の「そもそも論」 どう利用すべきか萩原栄幸が斬る! IT時事刻々(2/2 ページ)

» 2011年09月24日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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さまざまな問題点

 「政府の発表と数字が全然違う!」「市役所の測定は意味がないじゃない!」「クレームをつけようかしら?」――このように考えている方々は、安価な放射線測定器を通信販売で購入され、適切な校正を行わないままに、(買ったその時点で)知識も持たず液晶に表示された数字を盲目的に信じてしまっているかもしれない。「モンスター市民」にならないように冷静な行動をお願いしたい。

 国民生活センターでの結果でも、3分の2の機種で誤差100%以上、最大300%以上となった。これは「誤差」とはいえない。一部の方から「“デタラメ”は言い過ぎでは?」との意見もあったが、筆者はそうは思わない。これだけ大きな「誤差」は、「誤差」の許容範囲を超えるもので、「デタラメ」と感じてしまう。測定器1台で何でも計測できるような表現や広告、また、バックグラウンド放射の件、そして、「校正済」どころか生産国すら分からない機器が出回るのはいかがなものだろうか。

 例えば、同じ機器でも計測する高さで数値が大きく異なる。水平での計測、垂直での計測、斜め45度での計測でも数字が大きく変化する場合がある。こういう説明がされているかいえば、安価な測定器では日本語の解説書がない、さらには、説明書すらないという製品が多いと購入者から聞いた。

 筆者の愛読書の1つに「ラジオライフ」があるのだが、その10月号に「ガイガーカウンターの選び方・使い方・作り方」特集が掲載されていた。放射線の基礎知識や検出器の種類などについて解説があるのは高く評価できる。だが、組み立てキットの解説や購入製品に対する「表示値の補正」「校正」における文言が1文字もないのが残念である。

どう活用すべきか

 さて、これ以上の批判については評論家にお任せするとして、実際に安価な放射線測定器を購入した人や、購入を検討している人はどうすればよいか。数値を正確に測るための計測器は、ちょっとしたものでも100万円台にもなるので、実際問題として高価な計測器は手が出ない。安価な測定器としての有効な使い方を考えることになる。

 だが、その前に有効な使い方すらも難しい機器があるので、これには手を出すべきではない。国民生活センターの調査のものでいえば、

  • バックグラウンド計測(鉛箱内部での計測)の方が数字が高いもの
  • 何回測定しても数値が安定しないもの

 といった製品である。購入しても有効と言える使い道がない可能性がある。個別機種の問題の場合もあるかもしれないが……。信頼できる販売業者なら、そのような理由で製品を交換してくれるかもしれない。

 上記以外の製品では有効な使い方ができるだろう。それは、「相対的数字の継続」にあるのだ。つまり、数字そのものには「絶対的価値」がない。校正するにはコストがかかる。しかし、相関関係を示すことができるのは、国民生活センターの実験からも明らかである。よって、毎日こまめに同じポイントで継続して測定し、グラフ化していく。

 ある日突然数値が異常を示したとする。計測方法に変化がなく、機器の異常でもないとすれば、それこそが「身の危険」を示してくれる大事な証拠になるのだ。対象物が「拠点」とは限らない。物でもよいのである。何日も、何年もほぼ同じ状況であったのに、急激な数字の異常(しかも高くなる場合がほとんど)が示されれば、それは目に見えない何らかの変化が起きたと考えて相違ない。その時こそ、この機器を購入した価値が出てくるのである。

 日本中にこういう形で放射線を測る人が何千人、何万人もいれば、これ以上に心強い存在はないだろう。人々がそう心掛けて、自身の手で「安心」を勝ち取っていただきたいと強く感じている。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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