プロジェクトマネジメントの本質松岡功のThink Management

今回は、プロジェクトマネジメントについて考えてみたい。キーワードは「顧客満足」である。

» 2012年02月09日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

明暗分けたシステム開発プロジェクト

 特許庁が1月24日、かねて進めてきた次期基幹システムの開発を中断すると発表した。開発を委託したベンダーの作業が遅れており、予定されている期日までの完成は難しいと判断した。

 新システムは特許の出願や登録に使い、中国の特許情報を調べられ、国際化への対応も狙っていた。開発の遅れで、特許を申請する利用者は、機能の低い古いシステムを使い続けることになる。今後は中国の情報検索などができる最低限のシステムに絞り、別の方式で開発するという。

 マネジメントの観点からすると、開発中断の要因はプロジェクトマネジメント能力の不足にあるといえる。そこで今回は、プロジェクトマネジメントについて考えてみたい。

 本題に入る前に、特許庁の一件とは逆の形になったケースとして、これまでの取材で筆者が非常に印象深かった事例を1つ紹介しておこう。

 ある大手企業による基幹システムの開発プロジェクトにまつわる話である。作業は緻密なプロジェクトマネジメントの下で進められていたが、事業の急成長に伴って業務処理量が急増したことから、開発の大詰めになってシステムの負荷性能の問題とそれに伴うシステム方式の見直しを余儀なくされる事態に陥った。

 そこでその企業の経営者は、改めてシステム開発に携わっていたベンダーの経営トップに、問題解決への至急の対応を要請した。これに対し、ベンダーは経営トップの指示の下、社内のトップクラスのエンジニアを集めてタスクフォースチームを結成し、土壇場での問題解決に成功した。この一連の動きを取材した筆者は、その企業の経営者からこんな本音を聞いた。

 「タスクフォースの意味が特別に編成されたスペシャリスト集団であることは知っていたが、これほど経営トップの直轄で大きな権限を持ち、土壇場で素晴らしい問題解決能力を発揮するチームを目の当たりにしたのは初めてだ。ベンダーの底力を感じた」

 ベンダーからすると、タスクフォースチームの投入はプロジェクトマネジメントにおける最後の手段だったが、最大の難関を乗り越えたことで、ユーザーである企業から一層の信頼、すなわち顧客満足を得る形となった。

日本の企業に迫るマネジメントの変革

 さて本題。あらためてプロジェクトマネジメントとは何か。それは、工程や品質、コストや労務、緊急時のリスクなどを体系的にマネジメントしようという概念である。

 具体的には、ビジョンや方針に基づいて戦略・計画を策定し、時間軸、コスト、品質の面からプロジェクトの手順、技術、スケジュール、役割分担を決定。その後は進捗状況、コスト、品質を的確に評価し、変更の必要が生じたときの対応もあらかじめ想定して、円滑に計画を進めようというものだ。

 こうした概念を基に、さらにこの分野の専門家の間では、プロジェクト活動における科学的手法を応用し、それによってプロジェクトにおける利害関係者(顧客や株主など)の期待やニーズを満足させることを、プロジェクトマネジメントとして定義付けている。

 これは取りも直さず、プロジェクトマネジメントの導入が、単なる社内の業務管理面のニーズだけでなく、利害関係者からの期待やニーズの高まりに対応するために、より必要になっていることを表している。

 また、プロジェクトは期間を限定して行う活動ととらえるのが一般的だが、プロジェクトマネジメントのベースとなるプロセスをマネジメントするという意味では、日常のあらゆる業務にも当てはまる。そのプロセスマネジメントにおける根本的な考え方が、品質管理の世界であるTQC(Total Quality Control)活動の中から考案されたPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルである。

 PDCAサイクルとは、まず事の目的と実行手順を明確に決めた「プラン(計画)」を立て、それに基づいて「ドゥ(実行)」する中で改善すべきところの「チェック(見直し)」を行い、「アクション(改善案の立案と実行)」に移るといった一連のプロセスの流れである。

 ここでポイントとなるのは、それぞれの局面で「こうしよう」と意思決定しないと、サイクルが回らないことだ。つまり、日々の業務プロセスが意思決定プロセスそのものなのである。しかもPDCAサイクルでは、「計画」および「実行」で意思決定したことを「見直し」、そして「改善案の立案と実行」によって修正・変更することで、より適切な意思決定を導き出すことができる。

 この意思決定の変更をあらかじめ想定し、むしろ積極的に変更を加えることによって、より顧客満足度の高いプロジェクトを推進しようというのが、プロジェクトマネジメントの本質的なポイントである。その意味では、先に紹介した事例もこの本質的なポイントをとらえている。

 ただ、日本の企業の代表的な意思決定の仕組みは稟議制度に則っており、ともすれば決裁に時間がかかるだけでなく、一度決まればなかなか変更できないのが実態だ。プロジェクトマネジメントの本質的なポイントは、その点を突いたマネジメントの変革を迫っているといえよう。

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