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» 2012年03月02日 08時00分 公開

えっホント!? コンプライアンスの勘所を知る:不祥事からの脱出、2つの事件から見えた成否を分けるもの (2/2)

[萩原栄幸,ITmedia]
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老舗、創業家、ワンマン経営者に注意してほしい

 同じような不祥事ながら、一方は世間の好感を得て再出発に成功し、一方は破産した。この理由は何だろうか。そこにコンプライアンスの視点から学ぶべきポイントが見えてくる。両社に共通するのは、創業家一族が会社のほとんどを支配し、どちらも食品に関係した偽装を行ったという点だ。単純にコストダウンを図るというのが理由である。

 筆者は数多くの企業へのコンサルティングを通じて「創業以来のワンマン社長」や、その一族が経営権を支配すること自体に、特に問題を感じてはいない。その企業の誕生から成長に至るまで、文字通りに人生を賭けて経営に取り組んでいる。一般の従業員にはない使命感や義務感をずっしりと背負いながら歩んできたからこそ、その企業の「今」がある。だが逆に、そこが大きな「穴」になっている場合の企業も存在する。

「過信」は禁物

 今までの判断が良かったからといって、今後とも良いとは限らない。実に単純な論理だが、往々にしてその忠告を無視するワンマン経営者がいるのも事実である。周りの役員がどう判断しても、時には経営者が勇気を持って強引に進めることの必要性を筆者は排除しない。ただし、できる限り冷静に分析し、その上でも判断に悩むなら“己の信念に従う”という上での行動であるべきだ。徹底した分析もしていないのに感性や義理人情だけで突き進むことは、時に悲劇を招く愚かな行為である。

会社の常識は世間の非常識かもしれない

 船場吉兆の場合、賞味期限シールを張り替えて会社の利益を高めたり、食べ残しをそのまま流用して他のお客に出したり行為が、世間的に許されないものだとなぜ会社は考えなかったのだろうか。当事者の一部の弁によれば、「会社の利益が一番」「上司の命令は絶対」と考えていたようだ。コンプライアンス上では会社の利益が法律を逸脱してはいけないのだが、同社の事件はコンプライアンスを問われる以前の問題だと思える。

創業者の感性が時代に合っているか?

 必ず第三者の視点でチェックすべきである。時代の流れは早い。老いは個人差が大きいが、老いを感じて感性が時代についていけないと分かる経営者はまだマシである。一番に困るのは、老いが危機的に進んでいるにも関わらず、「自分は大丈夫」と思ってしまうことだ。こうなると従業員は大変になる。

いつの間にか、悪い意味での「ワンマン」になっていないか?

 上述のようにワンマンが悪いとは限らない。だが、そこには冷静に分析できる、もう一人の自分(経営者)いることを意識しなければならない。そうしなければ、いつかは破綻が訪れることになる。

経営者に進言できる勇気が役員にあるか?

 致命的な誤った判断をするワンマン経営者に対して、平然と「それは誤りです」と言える状況を創り上げているのが有能な役員である。

二代目社長に「悪しき習慣例」を根絶する勇気があるか?

 創業者、もしくは代々築いてきたものを壊すのには、非常に勇気がいる。しかし例えば、総会屋との付き合いなどは反社会的な行為であり、現代では決して、許されるものではない。きちんと“外科手術”を施し、改善すべきである。そうしないと会社の未来はなくなる。

一般企業の “普遍”

 なぜ船場吉兆の暴走を食い止められなかったのか――筆者の経験として言えることは、従業員のコンプライアンス教育が不足していることでもなく、経営者自身の問題でもない。経営者と従業員の狭間にいる「幹部」のコンプライアンス順守の意識が希薄だったことに原因がある。同情すべき点は多々ある。だが不祥事を発生させてしまった企業に対して、筆者は「もう少し幹部が、コンプライアンスの順守を強く意識して行動していたら、もっと浅い傷ですんだはずだ」と感じている。

 積み重ねてきた不祥事を一般の従業員の責任にするのは、あまりに不条理だ。そうかと言って、経営者の責任として片付けるのは逆に安易すぎる。そこに、双方を橋渡しする「幹部」――それは業種、業態、規模などの違いにより役員だったり、工場長だったり、部長だったりと呼称の違いはあるかもしれないが、これまで述べてきたような役割を果たすべき立場にあるなら、難しいとは思うが、経営者の暴走を極力制止しつつ、従業員のために行動していただきたい。常識で考えて「おかしい」と思う場面に、「おかしい」と言えないのは役目を放棄することに等しい。

 「経営者を育てる」という意識を持って従業員との橋渡し役を担える「幹部」が多い企業では不祥事は起きにくいだろう。経営者であればそういう幹部を育成できる仕組みを作る、従業員ならそういう幹部になることを意識して仕事に励んではいかがだろうか。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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