「ユーザーをロックインすることは絶対にない」――OracleエリソンCEOの講演語録Weekly Memo

Oracleのラリー・エリソンCEOが先週来日し、自社イベントで同社の戦略などについて基調講演を行った。その中から興味深かった発言をピックアップしてみた。

» 2012年04月09日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

最重点戦略は“Engineered to Work Together”の推進

 米Oracleのラリー・エリソンCEOが4月5日、東京・六本木で先週開催された「Oracle OpenWorld Tokyo 2012 」で基調講演を行った。Oracle OpenWorldが日本で開催されるのは3年ぶり。同イベントは毎年、米国サンフランシスコをはじめ世界各地で開催されているが、「エリソンCEOがこれまで米国サンフランシスコ以外で基調講演を行った記憶はない」(三澤智光日本オラクル専務執行役員)ということもあって、その発言が注目されていた。

 ライブ中継で基調講演を行うOracleのラリー・エリソンCEO ライブ中継で基調講演を行うOracleのラリー・エリソンCEO

 エリソン氏の基調講演は、同時に京都で開催中だった顧客企業の経営トップなどを招いたイベント会場からのライブ中継だった。スクリーンに映し出されたエリソン氏はこれまでと全くイメージが変わらず、独特のオーラを感じさせた。ダンディーな67歳である。

 基調講演の内容はすでに多くの報道がなされているので、関連記事等を参照いただくとして、ここではその中から興味深かった発言をピックアップし、筆者なりの印象を述べておきたい。

 「ハードウェアとソフトウェアによる“Engineered to Work Together”の推進が最重点戦略だ」

 今回のエリソン氏の講演内容のほとんどはこの話だった。具体的には、Oracleがいま最も注力しているデータベース用の「Oracle Exadata Database Machine」、アプリケーションサーバ用の「Oracle Exalogic Elastic Cloud」、データ分析用の「Oracle Exalytics In-Memory Machine」といった「エンジニアド・システム」である。その狙いは、最高のパフォーマンスを最小のコストで提供すること。同氏いわく「エンジニアド・システム関連の事業規模は今年度、10億ドル相当になるだろう。世界の大型コンピュータの中で最も事業の成長が速い」と確かな手応えを感じている様子だ。ただ、同氏が英語でどう表現していたか聞き漏らしたが、「大型コンピュータ」との通訳に「メインフレーム」を連想してしまったのは筆者だけだろうか。

 「いま“Engineered to Work Together”を体現しているのがAppleだ。それが正しいアイデアだということは、Appleの成功が証明している」

 前述の発言と関連して、エリソン氏は米Appleの成功を引き合いに、エンジニアド・システムの正当性を重ねて強調した。長年の大親友だったという故スティーブ・ジョブズ氏の発想に敬意を表し、「彼はとてもシンプルなアイデアを持っていた。それは1社でハードウェアもソフトウェアも開発し、オンラインサービスも手がけることで、全てをシームレスにつなげるという発想だ。全てのピースをうまくフィットさせることこそがビッグアイデアで、Appleはそれをやってのけた」と語った。そして「Oracleは同じ発想でエンジニアド・システムを展開し、Appleが創ったモバイルの利用環境もバックエンドで支え、モバイルインターネットの世界を広げていきたい」とも。こう聞くと、AppleとOracleは補完関係にある。ジョブズ氏が元気だったならば、エリソン氏はいろいろと一緒にやりたかったのではないか。

一段と激化しそうな宿敵IBMとの戦い

 「IBMがまもなくエンジニアド・システムの対抗製品を発表するようだが、Oracleはすでに7年間このシステム製品の開発に取り組んできた実績があり、そう簡単に追いつかれることはないと確信している」

 この発言は、IBMが4月12日(日本時間)、エンジニアド・システムの対抗製品とみられる「エキスパート・インテグレーテッド・システム」を世界同時で発表する予定をにらんでのものだ。「IBMがどんな製品を出してくるか大いに関心を持って見ている」と言う同氏だが、“Engineered to Work Together”の推進はそんなに簡単ではないとの自負が、発言から読み取れる。ただ、同氏のIBMへの対抗心は以前にも増して強まっているようだ。

 4月8日付けの日本経済新聞に載った同氏のインタビューでは、ジョブズ氏との話に絡めて「2人ともビル・ゲイツと戦ってきたが、これからの私の仕事は総合IT企業としてIBMに勝つことだ」と明言している。もっとも講演では、「IBMがOracleを追いかけようとしているだけでも面白い。追いかけるよりも追いかけられるほうが(気分が)いい」とも。ちなみに「(気分が)」と入れたのは、同氏を長年見てきた筆者の解釈である。

 「Oracleがユーザーをロックインすることは絶対にない」

 この発言は、講演の最後に京都の会場で聴講者から「かつてシステムベンダーのロックインによって高いコストを強いられた苦い経験がある。Oracleのエンジニアド・システムも同じようになるのではないか」との質問を受けてのものだ。エリソン氏は続けて「データベースをはじめとしてOracleのソフトウェアが多くのハードウェアで利用できる選択肢は、今後も必ず提供し続ける。確かに、例えばExadataはOracleデータベースを最高のコストパフォーマンスで利用できるシステム製品として提供しているが、よりコストパフォーマンスに優れたハードウェアがあれば、ユーザーはそちらを選んでもらえばいい。そうした選択肢を提供し続けるのが、Oracleの基本戦略であることに変わりはない」と説明した。そして「Oracleが目指しているのは、ロックインではなく、コストパフォーマンス競争で優位に立つことだ」と強調した。

 実は、この懸念は多くのユーザーが感じていることでもある。それだけに、エリソン氏にとってはこの質問に答える機会があっただけでもよかったのではないか。ただ、エンジニアド・システムのような製品とベンダーロックインの論議は、そう簡単にはクリアにならないだろう。一方で、エリソン氏が話題に上げたように、ある意味でベンダーロックインの象徴であるAppleの成功は何を物語っているのか、よく考えてみる必要がありそうだ。

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