テレワークが労働者のマインドを変えるテレワークの日 総括(後)(2/3 ページ)

» 2012年05月23日 11時30分 公開
[米野宏明,ITmedia]

分類:タスクごとに向き不向きを理解する

 コミュニケーションの手段として、Face-to-Faceが最も質の高いものであることはいうまでもありません。しかし人の移動には非常に大きなコストが掛かりますので、どうしてもそれが必要な業務、それほどでもない業務を明確にし、それに応じてテレワークの導入形態を決めていくべきです。

 アジェンダが明確であり、ファシリテーションが比較的容易な定例会議のような場では、オンラインの方がむしろ効率が上がる場合があります。Face-to-Faceに比べて質が劣る分、必要な情報交換に集中しやすくなったり、音声に加えてテキストや映像、ファイルやアプリケーションを同時に複合的に利用できるため、記録を残しやすく、むしろ情報交換が確実になります。

 逆に、ある程度の人数が集まったブレーンストーミングのような会議をオンラインで行うのは、少々難があります。

 オンラインでは相手の呼吸が分かりにくくなるため、ファシリテーターには高度がスキルが求められます。参加者も長時間にわたる会議にひたすらPC画面だけで参加するのは、結構なストレスです。戦略ディスカッションのようなものは、1カ所に集まって「ひざ突き合わせて」話し合う方が効率的でしょう。

 実は日本マイクロソフトでも、毎年北米で実施されるグローバルの社員総会に数万人の従業員が参加します。私が所属する部署では、それとは別に年に1度本社の近くでサミットを実施し、Face-to-Faceのディスカッションを行います。日本だけでも年に数回オフサイトミーティングを行い、まる1日以上使って密なディスカッションを行います。

 マイクロソフトのようなテクノロジーカンパニーでも、膨大なコストを掛けてこのような場を作っています。これらオフラインで最初にビジョンや戦略に対する合意形成がなされているからこそ、その後のオンラインが有効になるのです。


 外部とのコミュニケーションが集中するような業務や役割の場合、テレワーク環境での接続性のリスクが顕在化します。管理不能なネットワーク環境に接続性を依存せざるを得ないからです。通常は問題なくても、局所的な停電や事故の可能性は否定できません。

 そうなると、コールセンターなどの顧客との一次的な接点を持つ業務では、完全にコントロール可能で冗長化されたインハウス、もしくは高いレベルのSLAに基づくアウトソースなどで、接続性の確保が必要になるでしょう。しかしそこから先のコミュニケーションは、対応メンバーや連絡手段の多重化によって、テレワーク環境でも十分に対応可能です。業務としてのコールセンターではなく、会社や部門の代表電話などのコンタクトであれば、一次窓口はごく少人数で構わないでしょう。

モデル化:部門や職種のビジネスサイクルに沿って組み立てる

 部門や職務ごとに、これらのコミュニケーションがどのような頻度とサイクルで発生するのかを特定し、モデルを作成します。

 全社員に画一的なモデルを適用しようとすると、合わない部門が出てきて不公平感が生まれます。各個人にも独自の事情があり、担当する業務や能力は千差万別です。しかし部門や職務には、ある程度共通化された一定のビジネスサイクルがあります。そのサイクルの中で、どのようなコミュニケーションが誰と発生するのかを特定すれば、集まるべきなのか分散すべきなのかを判断できます。ほとんどの日をテレワークに移行できる場合もあれば、特定時間や特定曜日にコミュニケーションを必要とする業務を集中させ、オフィスへの出社と組み合わせた方がいい場合もあるでしょう。

 営業部門であれば、月次でFace-to-Face会議を設定して全体の戦略や進ちょくの意識合わせを行えば、残る大部分の時間はテレワークでも問題ないでしょう。テレワークの日サーベイでも実際に、大企業アカウント担当の営業部員から「客先に出ており普段と変わらなかった」という回答が相当数ありました。顧客先でのFacing Timeをできるだけ増やした方が、彼らにとって営業効率が高いのは明らかです。

 製品マーケティング部門であれば、他部門の定例会議へのオブザーバー参加や外部のパートナー、マーケティングベンダーなどとの打ち合わせなどが頻発するため、全般にはオフィスに出社した方が効率的かもしれません。しかしそれらの機会をできるだけ同じ日や時間帯に寄せられれば、部分的なテレワークも可能です。この場合、サイクルは自分自身で作り出すことになります。

 例えば私は、本社とのオンライン会議が日本時間の早朝に入っている日は午前中をできるだけブロックしてしまいます。朝自宅でオンライン会議に参加し、そのまま製品カタログやプレゼン資料作成など一定時間の集中が必要な業務を自宅で続け、場合によっては昼食も自宅でとってから出社することがあります。こうすると結構な時間とストレスが削減されます。

 経理などバックオフィス業務部門の多くは、比較的業務サイクルがはっきりしていますので、曜日や週などテレワークのタイミングをあらかじめ決めておくとよいかもしれません。

 実はテレワークの日に、BCPの検証を目的として経理部門の一部のグループに3日間連続でテレワークを行ってもらいました。数名が大阪支店に移動し、海外と在宅勤務者と3点で連携して、比較的クリティカルな「支払業務」を遂行し、無事に完了しました。ペーパーワークが必要だったり、突発的な問題発生に迅速に対応が必要なタイミングには、出社して共同で作業する方が効率的かもしれませんが、今回のシミュレーションで、テレワークでも十分に高品質な業務遂行が可能なことが証明されました。

 サポート部門は接続性確保の必要があるため、全員が同時にテレワークに移行するのは難しいでしょう。テレワークの日のオフィス出社率は最も高くなりましたし、東日本大震災後も、しばらくの間名古屋や大阪支社にサポート人員を分散して派遣し、サービスを継続した経緯がありました。一次窓口を交代で行えるシフトを組んだり、アウトソースして接続性を維持する必要があるでしょう。しかし二次以降のサポート体制は、バックアップがきちんとできていれば、全員テレワークでの運用が可能なはずです。

 テレワークの日のサーベイを行うことで、どのような部門や業務において、どのようなスタイルのテレワークが適しているのか、ある程度推測できました。次回以降の実践においては、部門ごとにガイドラインを変えるなどの調整を施すことによって、より効率的なテレワークが可能になるでしょう。

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