最終回・コンプライアンスの精神とはなにかえっホント!? コンプライアンスの勘所を知る(2/2 ページ)

» 2012年06月22日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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レストランにみるコンプライアンスの違い

 平均の客単価が3万円前後の最高級レストランとファミレスのようなところでは、コンセプトの大きな違いからコンプライアンスも全く違うものとなる。両方とも法令順守が基本にある。食材に明記された消費期限を必ず守るようにと、従業員を教育している。

 しかし、高級レストランではノーネクタイの客を入店させないとか、「小学生以下お断り」「警告しても騒ぐお客様は即刻、退出をさせて頂きます」「紹介者がいない場合は入店をお断りする場合があります」などとハードルを高めて、ステータスを作るよう工夫をしている。オーナーによっては赤字でもハードルを高めたままにしているケースも多い。

 食材の鮮度にもこだわり、その日に入荷したものは野菜なら48時間以内に、鮮魚なら24時間以内とか、入荷した日のうちに全て処分するところもある。これをマニュアルに記載し、中には「養殖は一切使用しない」「無農薬野菜、有機野菜低農薬以外は使わない」など、法律よりも極端に厳しい内容で、優良な食材だけを使っているところもある。

 一方、薄利多売のレストランは「低価格でおいしいレストラン」を目指す。「お子様大歓迎」であり、騒いでもよほどのことがない限りは注意しない。当然ながら客の服装は来店に全く関係ない。

 いずれもレストランという同じ業態だが、そのコンプライアンス、特に経営方針は全く違う。日本人はいずれの形態も受け入れ、庶民でも高級店に行くしファミレスにも行く。どちらも存在していいと多くの人たちが思っている。

コンプライアンスのまとめ

 さて、まとめてみたい。これまでお伝えしてきた点と重複するかもしれないが、ご容赦願いたい。

1.法令順守は当たり前

 しかし、その当たり前のことができない企業がある。賞味期限を改ざんしたり、輸出してはいけない物を輸出したり、何回摘発されても談合を繰り返したり……。そういう企業にこそ、法令順守という基本を厳格に守る仕組みや体制を持たせ、そして適正なペナルティもきちんと決めて厳格に運用すべきである。ぜひ外部の専門家を招いて、速やかに自社の異常さを指摘してもらい、プロジェクトチームやコンプライアンス統括部などを組成して期日を決めて実践すべきである。内部だけの人間だけで実行できるほど甘くはない。必ず外部の“新鮮な血”を入れるべきである。

2.「法律さえ守れば」は危険

 法律さえ守れば後は気にしないいう企業は、筆者の経験から次の特徴があった。

  • 拝金主義――「お金」という物差ししかない。人間の尊厳や品性は全く気にしない
  • ワンマン経営――その個人経営者が品格を持っているなら良いが、持っていない場合が多く、常にわがままで周りの意見は聞かない。自分はすごく理解のある優しい経営者であり、自分の起業した会社だから「俺のもの」と思っている
  • ブランド依存――昔から有名でシェアも高い。でも2代目、3代目の経営者であり、経験がなくその素養も乏しい。経験や能力はきちんと教育すればどうにかなるが、先代のわがままが許されて側近に指摘する人材もいない場合がある。かつて成長していたが近年の大不況で減収減益というケースも多い
  • 大企業だけど体質が戦前――東証1部もしくはそれに準じた大企業。しかし体質改善が進んでいない(収益がそれなりにあり大きな会社なので余計に危機感が薄い)。プライドだけは高いが仕事の能力は低い場合が多い

 あくまで参考例だが、このような企業はそもそもコンプライアンスの考えについても、形だけ取り繕っており、真剣に外部の専門家を使って変革しようともしない。問題が表面化してから体質が発覚する場合が多い。

3.経営が目指すものを具体化せよ

 経営ポリシーともいうべきものが欠落しては、従業員は企業をどう成長すべきか分からなくなる。ぜひ経営者として従業員や役員にどういう方向で会社を成長させるべきか、経営者の理想は何かを示す必要がある。これが無いところでコンプライアンスマニュアルを作成するのは危険である。会社の全員が経営者と同じ意識を持っているはずがないからだ。

4.従業員の教育が重要

 まず形を作る。これ自体は許容できる。いけないのはその形だけ作ったままにするケースだ。それでは全従業員に経営者の精神が浸透しない。経営者は必ず何を考え、そのための具体策として今期は何を目標としているか、来期は? 3年後は? どうしたいのか? ――これを新人にまで浸透させなければいけない。特に消費者をお客としている会社ならなおさらである。

5.外部の協力者を作れ

 企業がいびつになりはじめたと気が付いた部長クラスなら、経営者の賛同がないと改善を期待できない。そこで効果的なのは、外部の専門家の指摘である。経営者は、内部の人間は自分より立場が低いとみて、抜本的な問題については否定しがちである。そこで外部の意見をきちんと取り入れ、経営者の同意をもらうことが欠かせない。

6.せめて内部の意識は団結させること

 「コンプライアンスは難しいのでよく分からない」――そんなに難しいものはない。一部の本やマニュアルでは確かに難しく解説されているが、結局のところは経営者が、「この会社をどう成長させたいか」「どういう方向に伸ばしたいか」と全員に周知し順守すること、これによって理想の会社にしていく「礎」とするわけである。経営者にとってこれほど重要な作業が他にはないはずだ。もし読者が経営者なら、ぜひコンプライアンスの重要性を理解していただき、企業を成長させてほしい。


編集部からのおしらせ……「えっホント!? コンプライアンスの勘所を知る」は今回で終了します。次週からは萩原栄幸氏が“迷探偵”として、テクノロジーのちょっと気になる裏話を解説する新連載をお届けします。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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