ITのアプローチを建築に応用し、人口増による都市集中という社会問題を解決しようと意気込むのが、スイスのベンチャー企業であるLiving PlanITだ。
少子化に悩む日本だが、世界に目をやると人口は増加の一途をたどっている。問題は単に人口の増加だけではなく、都市への集中もある。人々は都市を目指して移動しており、世界の各都市はさらなる拡大を求められているのだ。これまで人類が経験したことのないレベルの都市集中に耐えられるのか――。都市化のトレンドはわれわれに大きな課題を突きつけている。
建築レベルからの効率化を盛り込んだスマートシティ計画・構築支援をテーマに掲げるのが、スイスのベンチャー企業であるLiving PlanITだ。都市向けのオペレーティングシステム(OS)「Urban Operating System(UOS)」により、ITのアプローチを建築にもたらすと同社は意気込む。その革新性が評価され、2011年、世界経済フォーラムでLiving PlanITの共同創設者であるスティーブ・ルイスCEOはグローバルテクノロジーパイオニア賞を受賞した。
英ロンドンに訪れていたルイス氏にLiving PlanITの事業や戦略などについて聞いた。
――まず、Living PlanITについて教えてください。
私はソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、Microsoftなどのソフトウェアベンダーで働いた経験を持つ。数年前に米国の不動産開発業者と協業する機会があり、その際に建築業界について学んだ。そこで、建築業界という巨大産業に、技術による効率化がほとんどもたらされていないことを知り驚いた。建築業界は2020年に30〜40兆ドルといわれるほどの巨大な市場なのだ。あらゆる産業が技術や通信によるメリットを享受して効率化が図られているが、建築業界は浸透していないと痛感した。
現在、人口の増加と都市集中は人類全体の大きな問題となっている。開発途上国で増え続ける人口は、先進国のわれわれが当たり前と思っていること――きれいな水、エネルギー、廃棄物処理、教育や福祉など――を利用できず、生活の質改善を求めて都市を目指している。2008年が転換点となり、既に人口の50%以上が都市(アーバン)環境に住む時代となった。2050年には人口の75%、つまり4人に3人が都市に住むようになると予測されている。2050年の世界人口予測は90億人といわれており、70億人が都市に住むのだ。既存の都市はこのままではこれだけの数の人々を吸収しきれない。政府はこの潮流に対応するため、早急にインフラ整備を求められるだろう。
このような状況もあって建築業界の技術による支援は不可避だと考え、Living PlanITを2006年に立ち上げた。創業後にフォーカスしたことは、建築をどうやってシンプルに、効率化するかだった。これにより都市の建築と運用のコストを削減できるからだ。
不動産や建築業のユニークな特徴として、持続性が長いという点がある。車の寿命が数年から十数年、航空機は50年であるのに対し、都市の生命は長く、世界のほとんどの都市が数百年前から構築を重ねている。多くの産業は持続年数に対する製品パフォーマンスの改善にフォーカスしており、シミュレーション技術を利用したデザインの修正、改善によってこれを実現している。これを建築業界に応用できないかと考えた。
例を挙げると、1億ドルを投じて建物を建築すると、現在3分の1のコスト(3000万ドル)が廃棄、つまりムダといわれている。1億ドルではなく、7000万ドルで建築して同じ賃貸料が得られれば建築の価値は改善する。30%の効率化が大きな収益率改善を生む。
創業から約2年を研究開発にあてた後、2008年にコンセプト化したのがUOSだ。現時点で都市向けのOSはわれわれ以外にはないと認識している。
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