新しいものを恐れるべからず、個人情報保護法とスマホの共通点“迷探偵”ハギーのテクノロジー裏話(1/3 ページ)

個人情報保護法が施行された当時、企業では個人情報の取り扱いを巡る議論が交わされ、残念な道を選んだところがあった。今のスマホブームでも同様のことが起こるのではと危惧される。個人情報保護法とスマホに共通する視点とは何か――。

» 2012年09月14日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 最近、スマートフォン(以下、スマホ)を題材にした講演が急増している。筆者が参加する「日本セキュリティ・マネジメント学会」では毎年11月に学術講演会を開催している(今回は座長を拝命した)が、今年は初めてスマホがメインテーマに登場する。3年前にはスマホをテーマにした講演依頼は1件もなかったが、今年は既に12件を超えるほどだ。情報セキュリティの世界に身を投じている筆者としては、こうした新しい技術がもたらす急激な流れの変化は驚くばかりである。今回は、そうした変化にどう対応すべきかをお伝えしたい。

個人情報保護法が成立した頃のこと

 社会に出て35年近くになるが、時代の流れの分岐点を肌で感じた出来事は数えるほどしかない。その中で印象的だったのが「個人情報保護法」である。法律が検討されていた頃、先生や役人の方々に参考意見を求められて、さまざまな提言をした。パブリック・コメントを学会の「個人情報保護研究会」として提出したこともある。そういう時代に、某出版社のコンサルタントをしていた。

 当時はまだ身分が銀行員だったため、当初は躊躇したが、ぜひ経験としておきたいということもあって、交通費だけを頂戴して引き受けた。そして、この出版社の役員がこう切り出し、筆者はびっくりした。

「先日、萩原さんに分析いただいた中でもっとも難題と思われる『読者カード』の取り扱いについて、役員会でその方針が決まりました」

 「読者カード」とは、書籍の中に挿入されているハガキ形式のアンケートである。そこに、その本の評価や意見を記入する欄があり、住所、氏名、性別、生年月日、連絡先なども記入するものだ。投稿者に抽選で図書券をプレゼントするというようなこともあって、かなりの枚数が郵送されてきたようであった。個人情報保護法が成立すると、この読者カードの取り扱いが大変になること容易に想像されたわけである。

 当時は、読者カード自体を廃止する勇気のある出版社はほとんどなかったと記憶している。この会社も例外ではなく、大手出版社の意見などを聞いて、「当面廃止はしないが、何かあるとマスコミに騒がれそうだ」という考えで、その取扱いを役員会で検討し、結論を出したというのである。どう決定したのか問いただしたところ、

 「正式な取り扱いは業界団体で順次決まっていくでしょう。それまでは周りを見ながらその動きに追随するしかありません。読者カードの情報をもとに今まで何十年と統計資料を作成してきましたが、これが活用されているか分からないところもあります。ですので、当面は送られたカードを経理部にある金庫室に段ボールごと保管することにしました。これなら情報が漏えいするなんであり得ないでしょう。金庫室のガードは相当に厳しいし、内部は監視カメラで全て録画しています。これなら萩原さんも了承していただけると思いますが」

 筆者は声も出なかった。それは最悪な選択肢だと考えたからである。

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