新しいものを恐れるべからず、個人情報保護法とスマホの共通点“迷探偵”ハギーのテクノロジー裏話(3/3 ページ)

» 2012年09月14日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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「スマホは嫌いだ」を克服せよ

 スマホに関する最近の動きを見ていると、その衝撃は相当なものだ。実際問題として、セキュリティ専門家がスマホの動きに追い付けないということも聞く。昨年の暮れに、情報セキュリティを専門としている大学の先生方へ実際にスマホを利用しているかを尋ねたが、なんと半数以上が使っていなかったのである(今ではごく一部だけになった)。

 筆者も3年前に、理屈を並べるだけでは仕方ないと感じて、違和感を覚えながらも使い始めた。今、スマホを持っていない情報セキュリティのコンサルタントはまずいと思う。スマホは活用してこそのものであり、その延長線上でセキュリティやBYOD(個人所有のスマホなどを業務に使うこと)、クラウド連携といったことにつながっていく。

 企業としてスマホの潮流をどう考えるべきか。現場のセキュリティ担当者は、口々に「スマホなぞとんでもない! 作業の手間や負担が一気に増える。運用フローとかいうレベルではなく、実はうちのスキルが今の若者たちに追い付けていない……」と話されているのが実態だ。ましてやBYODへの対応など、本音で「OK」といえる現場担当者は皆無だろう。ITベンダーの中にはBYODなど良いことだと提案していても、その会社自体の実績がほとんどないケースさえある。多少なりともきちんと対応できる会社を探すだけでも大変だ。

 こうした状況で筆者も所属している「日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)」は、スマホを安全に活用していくためのガイドラインを公開している。また総務省は9月10日に公表した「スマートフォン安心・安全利用促進プログラム」などでも、実践的な対応策の内容の公開とそのスケジュール(2013年4月まで)について記載している。

 一部の企業の管理者は、スマホに対して必要以上に「恐怖を感じる」「スマホは一切認めない」「スマホを業務に用いる必要性を全く感じない」と話される。しかし、そういう方々にぜひ言いたい。

 今やスマホはあらゆる業種、業態、職種――その全てにおいて無関心ではいられない存在になっている。そういう雰囲気が、まるで槍を突き刺すような勢いで現実社会を覆い始めているのだ。それなのに、ごく一部の年寄りしかいない取締役会で、スマホを「敵」のごとく扱い、「BYODなぞとんでもない!」としている(理論的に危険と主張する一部の方は除く)。もはや、その感性はカビが生えるほどに古すぎる。

 これではいけない。筆者も年齢のせいか、スマホが「平成の黒船」のごとく、お構いなしにこの世界を蝕む様子を見ていて気に入らない面もある。しかし、もはや避けて通れない状況にあり、感性だけで毛嫌いするのは、情報セキュリティのプロとしてのプライドが許さないのである。逆に取り込んで、そのメリットもデメリットを素直に受け止め、どうやって企業の収益向上やコスト削減に寄与すべきかを真剣に考える方が良い。

 セキュリティが不安――それだけで言えば、確かにその通りだ。その脆弱さ、デメリットを受け止めたうえ、メリットを生む活用を考えるのが専門家の役割である。企業は毎日生きていかなければいけないし、そこに「現状維持」はあり得ず、確実に前に進むための助言を行うのがプロでもある。筆者はスマホが苦手だが、スマホが生み出す価値を企業が享受できるようにすることがプロしての信条である。

 もしあなたが企業の担当者で、「スマホが嫌い」「受け入れたくない」と思うなら、今日からでも遅くはない。ぜひスマホを契約し、実際に利用し、その論理も勉強してほしい。スマホ活用の効果が自社に還元される仕組みを考えていただければ幸いである。情報もスマホも活用してこそのものだからだ。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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