高速3Gが牽引したモバイル大衆化時代の到来モバイルワーク温故知新(2/5 ページ)

» 2012年09月25日 08時00分 公開
[池田冬彦,ITmedia]

リーズナブルなHSPAがモバイルの世界を変えた

 このような状況の中、HSPAデータ通信の大衆化に貢献したのが、イー・モバイル(現イー・アクセス)だ。イー・モバイルは日本で最も新しい携帯電話会社で、ADSLサービスを展開しているイー・アクセスの子会社としてスタートした。

 イー・モバイルは2007年3月31日に東京、名古屋、大阪の主要エリアで、下り3.6Mbps、上り384kbpsのHSDPAデータ通信サービス「EMモバイルブロードバンド」を開始した。イー・モバイルは携帯電話会社でありながら音声サービスを当初は提供せず、PCや小型端末向けの高速データ通信サービスに特化して低価格なプランを提供した。

 プランは4種類用意され、完全定額のプランでは月額料金は4980円、2段階定額制のデータプランでも最大6480円と、高速データ通信サービスとしては非常に安かった。また、当初からPCカードタイプの「D01NE」、CFカードタイプの「D01NX」、USBタイプの「D01HW」の3種類の通信カードを用意した。

日本発のHSDPA・Mac対応USBデータ端末「D01HW」

 特にD01HWは、日本初のMacで利用できるHSPA対応データ端末となり、CFカードスロットやPCカードスロットを持たないノートPCでも利用できた。当時のモバイル通信の月額コストはおよそ1万円か、それ以上であり、EMモバイルブロードバンドの価格は多くのユーザーに支持された。発売当初は、端末製品がほとんどの家電量販店で売り切れるという人気ぶりだった。

 2007年当初のサービスエリアは関東(主に国道16号線内)、大阪、京都、神戸、奈良、名古屋、北九州、福岡、仙台、広島の主要エリアに限られていたが、イー・モバイルは精力的にエリアを拡大し、2011年には人口カバー率92%を達成している。

CFカードタイプのD01NX(左)とPCカードタイプのD01NE(右)

 下り3.6Mbpsという高速通信の恩恵は大きかった。電波の受信状態が良好であれば、実効速度は平均2Mbps前後。PHSデータ通信では20分程度かかっていた10Mバイトのファイル転送が1分程度でできてしまう。VPNでイントラネットにアクセスして、共有されたファイルをダウンロードしたり、メールの添付ファイルを受信したりすることもストレスなくできた。送信は384kbpsと遅かったが、それでもPHSに比べれば高速だった。

 公衆無線LANのない飲食店やカフェなどでも、報告書などの書類を作成して会社に送信したり、移動中の列車内でメールや書類をやりとりできるなど、どこでも自由に仕事ができる。これなら自席のパソコンで書類などを提出するためにオフィスに戻る必要もない。合理的なワークスタイルが安価なランニングコストで実現する時代がやってきたのだ。

2007年のサービスイン直後の関東のサービスエリア

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