ノートPCによるモバイル通信の進展と並んで、スマートフォンの普及もモバイルワークの発展に寄与している。3.5G通信を使った小型携帯端末は先述した通り、イー・モバイルのEM・ONEが元祖であったが、残念ながら爆発的なヒットにはつながらなかった。
やはり、今日のスマートフォンブームの先鞭をつけたのは、AppleのiPhoneの登場だろう。iPhoneの発表は2007年1月。米国サンフランシスコで開催されたMacWorld Expoの基調講演だった。故スティーブ・ジョブズは「Appleが本日、電話を再発明する」という触れ込みでiPhoneを発表した。
もっとも、ジョブズはiPhoneのことを「(既存の)スマートフォンとは違う」と明言した。物理的なキーボードを持たず、スタイラスペンが不要なマルチタッチパネル式の全面液晶パネルという斬新なデザイン。当時は不可能とされた「全てを指で操作する」というアイデアを具現化するための、数々の特許技術によるインタフェース。今でこそ、スマートフォンと言えばタッチパネルの液晶画面が当たり前になっているが、当時としては誰も見たこともない未来のデバイスで、基調講演の会場はかつてない驚きと驚嘆に包まれた。
初代iPhoneはGMS方式(2G)にしか対応していなかったため、日本では発売されなかったが、2代目となるiPhone 3Gが世界22カ国で販売され、日本でも2008年7月にソフトバンクモバイルから発売された。iPhone 3GはHSDPAに対応し、下り3.6Mbpsで通信が可能だった。
その人気は異常ともいえるものだった。ソフトバンクモバイルの戦艦店である東京・表参道店には1500人以上の行列ができ、テレビや新聞などのメディアはこぞってiPhoneのニュースを流した。また、全国のソフトバンクショップでは予約販売を行っていたが、あまりに予約が殺到したため、どの店に行っても断られるという状態になっていた。
iPhoneは先進的なデバイスとして、世界的な大ヒット製品になった。添付ファイルを含むメールのやりとり、Webブラウジング、スケジュールや連絡先の管理、書類のブラウジング、地図アプリによるナビゲーション機能など、必要な機能は全て揃っていた。Appleの審査を経て流通する完成度の高いアプリも魅力的であり、VPNへの対応やMicrosoft Outlookとの連携機能などのビジネスに必要な機能も装備していた。
当時は音楽やビデオ、写真を楽しむコンシューマー向け製品として捉えられることが多く、ビジネスツールとして活用しようという動きが広まったのは最近のことだ。クラウドを核とした複数の機器とのデータ連携、グループウェアによる協調作業。GTDツールを駆使したナレッジワークへのアプローチなど、新しいパーソナルツールとしての可能性を創出したことは言うまでもない。
次回は、ワークスタイルのトレンドがモバイルから「ノマド」へと移り変わり、新しいHSPA規格やLTE、WiMAXなどの3.9G通信が普及した今日にフォーカスし、今後のモバイルワークの未来を考えてみることにしよう。
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