NECはよみがえるかWeekly Memo

先頃まで元気がないとみられていたNECに、このところ好転の動きが出てきた。本格的な復活に向けて鍵を握るものは何か。

» 2012年11月12日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

世界トップレベルの分析エンジン群

 「ビッグデータ基盤や分析クラウドサービスを強化・拡充し、ビッグデータ活用による価値創造を強力に推進していきたい」

 講演に臨むNECの遠藤信博社長 講演に臨むNECの遠藤信博社長

 NECの遠藤信博社長は11月8日、同社が開いた「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2012」の講演でこう強調した。同イベントはNECが年に一度、最新のICTソリューションとそれを支える技術や製品を一堂に集めて披露するもので、同日から2日間、東京・有楽町の東京国際フォーラムで行われた展示会やセミナーには多くの来場者が訪れた。

 遠藤氏の講演内容はすでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、筆者が最も印象深かったのは、ICTによる新たな価値の創出に向けてビッグデータを活用する際の分析エンジンに、NECには世界トップレベルの独自技術がいくつもあるのを強調していたことである。

 同氏が紹介したのは、大量データの相関関係やイレギュラーな動きを発見する「インバリアント分析」、大量データ中の全く異なるパターンや規則を自動で発見することにより高精度な予測や異常検知に有効な「異種混合学習」、画像の中から自動的に顔を検出して高精度に同一人物を特定できる「顔画像解析」、人やモノの位置・時刻・移動履歴などを分析して行動パターンを自動抽出し予測する「行動分析」、2つの文が同じ意味を含むかどうかを判定する「テキスト含意認識」の5つ。

 同氏によると、インバリアント分析と異種混合学習は世界初、顔画像解析とテキスト含意認識は米国国立標準技術研究所主催のコンテストで世界トップの評価を得た技術だという。

 同社では、こうした分析エンジンを適用した「顔認証技術活用マーケティングサービス」や「不審者監視セキュリティサービス」といった国内初の分析クラウドサービスも発表しており、同氏はそれらの概要を説明したうえで冒頭のように語った。

 毎年、この時期に行われる同イベントは、まさしく同社が自らの技術力をアピールする場となっているが、特定の領域で「世界初」や「世界トップの評価」をこれだけ揃えて打ち出したのは過去に記憶がない。しかもその領域が、今後の有望市場であるビッグデータ活用の要といえる分析エンジンだけに、同社の並々ならぬ力の入れようが見て取れた。

独自の技術力によって捲土重来を期す

 遠藤氏の講演を聴いて「いよいよNECも反転攻勢に打って出た」と感じたのは、筆者だけではないだろう。それというのも、先頃まで同社は業績不振が長引き、株価低迷や人員削減など暗雲の立ち込めた話が目立っていたからだ。

 振り返ってみると、NECは2002年に半導体事業を分社化してから、プラズマや液晶など採算の厳しい事業を切り離してきた。2011年には国内シェアトップのパソコン事業も持分法適用会社化した。この結果、かつてピーク時には5兆4000億円を超えていた連結売上高が、2011年度(2012年3月期)には3兆1000億円にまで縮小した。

 こうした規模縮小に伴い、間接部門が相対的に膨らんだことなどから、同社は大がかりな構造改革に取り組み、人員についても2009年に1万5000人、今年も1万人規模の削減を行ってきた。ただ、2008年9月のリーマンショック以降の経済環境悪化に加え、2011年3月の東日本大震災や同11月のタイの洪水による被害で業績は大打撃を受け、2011年度の連結決算では1100億円の当期純損失を計上するところまで落ち込んだ。

 まさに土俵際まで追い込まれていたNECだが、ここにきて好転の動きが見え始めている。同社が10月26日に発表した2012年度上期(2012年4〜9月)の連結決算で、当期純利益が80億円と上期ベースで4年ぶりに黒字転換したのがその象徴的な動きだ。

 ちなみに、売上高は前年同期比0.3%増の1兆4478億円、営業利益は同7倍の474億円、経常利益は前年同期から403億円改善の299億円、そして80億円の当期純利益は前年同期から190億円改善し、増収大幅増益を果たした格好となった。

 当該決算のさらに詳しい内容については、すでに報道されているので他稿に譲るとして、NECにとっては業績が好転したからといって安心してはいられない。なぜならば、好転した最大の要因が構造改革の成果にあるからだ。引き続き構造改革に取り組むのは重要なことだが、今後はそれにも増して売上高をどうさらに伸ばすか、つまりは事業そのものをどのように成長あるいは拡大させていくかが、同社の“完全復活”の鍵を握る。

 そこで遠藤氏が先に紹介したイベントで、今後の有望市場として多くの時間を割いて説明したのが、ビッグデータ活用の分野である。ただ、この分野は当然ながら競合のICTベンダーもこぞって力を入れており、どこに明らかな優位性を発揮できるかが勝負の決め手となる。だからこそ同氏は、「世界初」や「世界トップの評価」を得たという分析エンジンを強調したのである。

 これはまさしく、NECは独自の技術力によって完全復活してみせる、との同氏の強い意志にほかならない。捲土重来を期す同社にとっては、これからが正念場である。

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