スマートデバイスの先進導入企業はいかに活用しているのか、攻防のヒントを探るITmedia エンタープライズ ソリューションセミナー レポート(1/2 ページ)

スマートデバイス導入が注目を集めるが、その「活用」はこれからというところも多い。ITmediaエンタ―プライズ編集部主催セミナーでは先進導入企業の活用事例として大成建設とリコーの取り組み、また、活用を支える最新ソリューションが紹介された。

» 2013年04月12日 12時00分 公開
[ITmedia]

自社以外でも使える基盤を目指せ

大成建設 建築本部建築部 C&N担当課長 田辺要平氏

 事例講演1に登壇した大成建設は、2009年からiPhoneやiPadと、「Field Pad」というアプリケーションを自ら企画し、クラウドサービスを建設現場で活用している。そこでは「大成以外の仕事でも便利に使える仕組みを目指した」(建築本部 建築部の田辺要平氏)とのことだ。

 田辺氏によると、モバイル活用の前提にはASP(クラウド)サービスでの成功体験があるという。同社では1998年に「G-net」という電子調達システムを構築。2003年に三菱商事のASPサービス「作業所Net」と、G-netを改良した「TRIOPLAZA」を組み合わせたシステムに発展。2005年には同ASPサービスの「グリーンサイト」も導入。2006年にTRIOPLAZAがさらに発展した「SUPER TRIO」を構築した。

 現在は、発注者や設計事務所、約5700社の協力企業との情報共有に作業所Net、作業所Netと連携する形でSUPER TRIOや社内ポータル、エクストラネットが本社や支店、また、1000カ所以上の作業所で利用されている。こうした電子化による効果は、例えば、契約書に貼付する印紙代だけで年間2億円、月間50万枚に相当する紙図面の削減につながった。

ただし、これまではPCでしか利用できず、現場に出向く担当者には利用しづらかった。そこでモバイル活用を検討する。Field Padの開発では「5700社の協力企業と3万以上のユーザーが使えること。日常的に利用してもらうために特定業務向けではなく、『電子文房具』のような汎用性のある使い勝手を重視した」(田辺氏)という。

 アプリ開発は同社が中心となり、ブラウザアプリも手がけるフェンリルが担当。三菱商事やコクヨS&Tが協力した。コクヨS&Tは、帳票サービス「伝票@TOVAS」をField Padのアドオン機能として提供し、App Storeにて一般販売している。

 Field Padのユーザーは、アプリから自身が関係する作業所Netにアクセスして図面や作業状況などの共有情報をセキュアに閲覧できる。その活用ではiPhoneやiPadにインストールしたアプリに図面データを取り込み、作業場所ごとの施工状況をデバイスのカメラで撮影、写真とコメントを図面データにピンで貼り付けて、現場からポータルに送信している。従来はデジカメで現場を撮影し、帰社後に多数のレポートを作成しなければならなかった。

 同社のモバイル活用は、クラウドを中核にして、モバイルを組み合わせるというアプローチを採用したことが成功要因とのこと。田辺氏は、「全部を決めてからではなく、どう使うのかという視点でクラウド活用を軸として、そこから順次スマートデバイスへ対応していくというステップが重要ではないか」と述べている。

5000人の営業力強化につなげる

リコージャパン 販売戦略本部 販売力強化センター リーダー 佐々木信氏

 事例講演2に登壇したリコーの国内販売会社であるリコージャパンは、2012年9月に約5000人の営業担当者が利用する営業支援ツールとしてiPadを導入した。

 講演した販売戦略本部 販売力強化センターの佐々木信氏によると、オフィス向けの事務機器販売市場はリプレース需要が中心で頭打ちとなっており、同社の販売実績も伸び悩んでいた。強化センターが2010年と2011年の営業プロセスを分析した結果、営業担当者の顧客訪問件数に大きな変化はみられないが、成約単価や成約率、顧客満足度が減少傾向にあることが分かった。ある部門では成績上位の2割の担当者と下位の2割の担当者とでは、月間の平均売上額に10倍もの差があることも判明した。

 そこで成績上位者の販売プロセスやノウハウを共有し、下位者のスキルの底上げを目指すことになる。iPadを活用した仕組みで営業プロセスを変革させ、それと同時に紙のカタログの製作や配布、デモ機の維持といったコストの削減に取り組んだ。

 導入したのは3G/Wi-Fi通信対応のiPadだ。ディスプレイサイズが顧客提案に適していること、セキュリティ面で優位性があること、ネットワークに常時接続できることが決め手になった。導入準備ではまず運用や使用ルールを策定し、顧客提案に利用するコンテンツやアプリなどの選定、担当者への研修などを実施。コンテンツやアプリはクラウドサービスを採用し、1日3時間の導入研修を全国の営業所で行った。

 iPadによる商談には動画を交えた電子カタログやアプリを利用。シミュレーションアプリを使って、実際のデモ機に近い操作性などを顧客に体験してもらえるようにした。電子カタログは、顧客ニーズの高い商材に絞り込んで更新や入れ替えを行い、常に鮮度の高い情報を提供できるようにしている。

 同社では早くもiPadを活用できていない担当者を対象に、フォローアップ研修を開始した。1回2時間の研修ではiPadを使った商談のロールプレイングを実施し、担当者の上司も参加して、担当者に的確なアドバイスやコーチングを行っている。

 iPadの活用効果を営業担当者にアンケートしたところ、47.8%が「顧客と面談しやすくなった」、84.3%が「顧客に興味を持ってもらえるようになった」と回答。また、平均受注額は112.8%、平均粗利額も146.0%アップした。上述の部門では成約件数が、成績下位者で128.7%、中間の担当者で122.3%、上位の担当者で117.7%アップしており、特に高額案件ほど高い効果が出ることとなった。

 iPadによる営業提案システムの導入コストを上回るコスト削減も達成し、着実に成果を出し始めている。

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