ネット選挙解禁で考慮すべき脅威(後編)

ネットの特性を十分に考慮した対応方法が求められるが、そのポイントは何か――。

» 2013年04月22日 14時50分 公開
[佐々木伸彦,マカフィー]
(このコンテンツはマカフィー「McAfeeブログ」からの転載です。一部を変更しています。)

 既に20年以上のネット選挙の歴史とノウハウがある米国では、「インターネットの活用が勝敗を分ける」と言われるくらい、積極的にインターネットが利用されていますが、その中で、政党や政治家にとっての最大の脅威は「レピュテーション」とも言われています。レピュテーションとは、「評判」と訳され、企業に対して世間や人々が抱く印象(イメージ)や評判という意味で使われますが、ネット選挙においても、政党や政治家に対する評判の管理(レピュテーション・マネジメント)が重要になると言われています。

 去年の大統領選挙に勝利したオバマ大統領は、支援者の獲得からメールでの情報提供、ネット献金の獲得、大規模なネット広告の展開など、選挙活動を支えるために大規模なクラウドサービスなども活用しながら、高度で洗練されたネット選挙を展開しました。特に、日本でも近年爆発的に利用者が増えているTwitterやFacebookといったSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の活用が非常に重要な役割を担っています。

 オバマ大統領は、FacebookやMySpaceといったSNSに自身のプロフィールや政策、ネット献金へのリンクなどを掲載するとともに、選挙活動の内容やイベントにおける写真や動画の掲載など積極的に情報発信をすることで、支援者の獲得を促進しました。また、支援者を地域や属性情報に基づきグループ化して支援活動を活性化したり、メールによる情報提供でもメディアよりも先に上質な情報を提供するなど(献金額によって提供するメッセージを変えていたとも言われています)、支援者の獲得のため、SNSを最大限活用し、きめ細かな対応を展開しました。これら綿密できめ細かな対応の背景には、やはり、「レピュテーション」の存在があります。

 インターネットでの発言や情報は、良くも悪くも、非常に拡散しやすい性質があるため、ささいな発言が誤解を生んでしまったり、ときには「炎上」と呼ばれる事態を招くこともあります。また、インターネットでは、キャッシュやアーカイブという技術(または人為的)により世界のあらゆるところにデータが保存され、再掲・拡散される可能性もあるため、その大本の発言を削除したとしても、一度で出回った情報を完全に削除することは難しい側面もあります。

 また、政治家と有権者との距離が近くなることで、ネットを介した有益な対話が期待される一方で、誹謗中傷や名誉棄損、プライバシー侵害といったリスクもあります。ネットの拡散力を利用したネガティブキャンペーンを展開されることも予想されます。これらマイナスの事態が発生した際には、迅速に事態を解消すべく、積極的な対話と対処が必要になります。しかし、誹謗中傷やネガティブキャンペーンが海外のWebサイトなどを利用して匿名的に実施された場合、事態を解消するための対話や対処(削除依頼など)が難しくなることも懸念されます。

 ある政党や政治家の政策や行動に対して、海外から反発を受け、攻撃を受けることも考えられます。去年、6月に発生した「Operation Japan」では、改正著作権法に対する抗議としてAnonymous(アノニマス)から日本の官公庁関連のWebサイトなどが攻撃されました。インターネットは、世界中とつながっているため、攻撃の脅威は、日本国内のみならず、世界中から起こり得ることを認識しておく必要があります。

 米国大統領選挙でのオバマ陣営は、悪い評判の解消手段(ネガティブキャンペーン対策)として、特設サイトを用意し、事実確認できない誹謗中傷に対しては支援者が反論運動を展開できるようにしていました。また、SNS上で心情を明かした有権者をピンポイントで説得する「Dreamcatcher」と呼ばれるアプリケーションも利用していたようです。

 良い評判であれば、いかにして評判を維持・拡散していくか、悪い評判であれば、どれだけ迅速に負の要素を解消または鎮静化させることができるか。政治家は、ネットを利用することで、より幅広い有権者と積極的な対話が可能になる一方で、インターネットの世界との接続性・拡散性を認識しつつ、自らのレピュテーション(評判)を管理することが重要になると言えます。

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