企業システムのあり方を変えるビッグデータ活用の未来像富士通フォーラム 2013 Report(1/2 ページ)

近年注目を集めるビッグデータの活用がいよいよ本格化し始めた。富士通は、同社のプライベートイベントを通じて、ビッグデータがもたらす新たな世界やそれに伴って変化していく情報システムの将来の姿などを示した。

» 2013年05月20日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 富士通は、5月16〜17日に恒例となるプライベートイベント「富士通フォーラム 2013」を開催した。今年は「お客様とともに描く、これからのビジネスと社会」をテーマに、ビッグデータやソーシャルテクノロジーの活用が企業や社会にもたらたすイノベーションの姿を披露した

ビッグデータ活用とは何か

 17日の基調講演では執行役常務 マーケティング部門 副部門長の川妻庸夫氏が、「人や社会に貢献するICTの新たな挑戦」と題して、ビッグデータ活用事例や同社における取り組みを紹介した。

富士通 執行役常務 マーケティング部門 副部門長の川妻庸夫氏

 ここ数年でIT業界の流行語となった「ビッグデータ」だが、川妻氏はその意義について、「さまざまな大量のデータを集めて処理し、社会に役立てること」という。その一例が、2012年の米大統領選挙における利用だ。投票前にさまざまな立場の専門家が当選予測を発表したが、New York Times誌ではソーシャルメディアにおける多種多様なコメントデータをもとに分析し、選挙人の獲得予想を的中させ、話題を集めた。これを手がけたネイト・シルバー氏は、ソーシャル上のビッグデータを数理的な解析を用いて予想した。

 将棋が趣味という川妻氏は、3月に実施されたプロ棋士と将棋ソフトによる対決にも、ビッグデータの分析が生かされたと解説。対戦では将棋ソフトが打つ一手を、16万以上の棋譜と1億以上のアルゴリズムを使って1秒間に2億通りも計算し、算出していた。

 従来の将棋ソフトは、将棋好きの開発者が自身の経験をもとにアルゴリズムを作っていたが、そのアルゴリズムは多くとも500通りほどで、アマチュアの初段レベルにとどまっていた。しかし、この対戦ではプロ棋士の一手に関するあらゆるデータを活用することで、初めてコンピュータが勝利した。

 「かつてコンピュータが人間を超えることはないと考えられてきたが、ビッグデータがその常識を打ち破ることを証明した瞬間ではないか」と川妻氏は述べた。

 富士通でもビッグデータ活用の取り組みが古くから行われてきた。例えば、約2万6000人の健康診断のデータを3年にわたって蓄積し、糖尿病になるパターンを分析して、96%の確率で的中させることを証明したという。

 2011年に開始した時空間データを活用するためのクラウドサービス「SPATIOL」ではタクシーなどから提供されるプルーブデータを蓄積し、その分析によって渋滞予測などを行い、ナビゲーションに役立てるといったことが実現している。同様に自動車のメンテナンスサービスに活用したり、あるいは、危険運転を行いがちなドライバーへの注意喚起といった活用も検討されているとのことだ。

 ビッグデータという言葉が生まれる以前にも、データ分析によって得られえる情報を活用することは長く行われてきた。ただ、そこでは情報を分析する人間が経験や知見、勘を頼りに仮説を作り、その仮説を検証するというアプローチがなされてきた。そのため、活用の幅には限界があった。

 川妻氏によれば、その限界を打ち破るのがビッグデータだという。ビッグデータ活用では“素のデータ”が持つ客観的な事実、要素を数学的な分析によって捉え、そこからどのような情報が得られるのか、どのように活用できるのかを考えるというアプローチが重要になる。その役割を担うのが、「キュレーター」あるいは「データサイエンティスト」と呼ばれる専門家であり、彼らが導き出したアルゴリズムをコンピュータに反映させ、機械学習を通じてさらに多種・大量のデータを蓄積、分析する。これによって、従来の人間の経験や勘では導き出せなかった知見を得ていけるようになる。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ