国産PaaSの挑戦Weekly Memo

サイボウズのPaaS型サービス「kintone」が利用者数を順調に伸ばしている。同分野は外資大手がひしめく激戦区。果たして国産PaaSの挑戦やいかに。

» 2013年07月22日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

salesforce.comに迫るcybozu.com

 「kintoneは単なるPaaSではない。チームワーク・プラットフォームである」

 サイボウズの青野慶久社長は7月16日、同社が開いたPaaS型サービス「kintone」の機能強化の発表会見でこう語った。kintoneは、グループウェア大手の同社がこれまで培ってきたそのノウハウを基に、同社のクラウド基盤「cybozu.com」上で手軽に業務アプリケーションを構築できるようにしたサービスである。

 冒頭の言葉の意味については後ほど説明するとして、まずはサービス開始後およそ1年半を経過したkintoneの実績および機能強化について少々紹介しておこう。

 会見に臨むサイボウズの青野慶久社長 会見に臨むサイボウズの青野慶久社長

 青野氏によると、kintoneの有料契約ユーザー数は6月末時点で700社に到達。「サービス開始後1年ほどは中小企業の顧客が多かったが、この半年間は大企業での部門利用が増えてきている」という。

 ちなみに、cybozu.comの有料契約ユーザー数は6月末時点で4000社を超え、月間200〜300社のペースで増加を続けているという。「年内には国内で先を行く米salesforce.comの契約ユーザー数に追いつくところまで来た」と、青野氏は確かな手応えを感じているようだ。

 cybozu.comは信頼性の高いクラウドインフラとして、kintoneだけでなく、グループウェアサービス「サイボウズ ガルーン」や「サイボウズOffice」、パートナー企業による業務アプリケーションなどの基盤にもなっている。この点ではsalesforce.comの事業モデルに近いといえる。

 今回発表されたkintoneの機能強化点は、企業間コラボレーション機能「ゲストスペース」、およびカスタマイズ開発機能「JavaScript読み込み」が追加されたことだ。これらの詳しい内容や実績として紹介された事例などについては関連記事を参照いただくとして、ここからは青野氏が語った冒頭の言葉の意味、そしてkintoneの今後の事業展開にフォーカスを当ててみたい。

kintoneはiPhoneと同じイノベーション

 kintoneは一般的に言えば、業務アプリケーション構築プラットフォーム、すなわちPaaSである。それが単なるPaaSではなく、「チームワーク・プラットフォーム」とはどういうことか。青野氏はおもむろにこう説明した。

 「そもそも業務アプリケーションは何のために構築するのか。例えば、契約書管理の場合、単に契約書を作成してそのデータベースを構築・管理するだけでなく、その過程で必要となるさまざまなワークフローやコミュニケーションの機能も実現すべきだというのが、私たちの考えだ」

 「どんな業務にもチームワークが求められる。そこで私たちはkintone上で、データベース、ワークフロー、コミュニケーションといったチームワークに必要な3つの機能を用意し、これをチームワーク・プラットフォームと呼ぶことにした」

 「これまでこの3つの機能は、個別のソフトウェアで提供されてきた。kintoneはこれらをセットにした新しいジャンルのものだ。例えれば、電話や携帯情報端末、カメラなどの機能をセットにしたiPhoneと同じ。それくらいのイノベーションだと自負している」

 青野氏の発言を咀嚼して紹介したが、サイボウズがなぜkintoneをチームワーク・プラットフォームと呼ぶか、理解していただけたのではないだろうか。

 さて最後に、そんなkintoneの今後の事業展開について、筆者の思うところを述べておきたい。それは先ほど名が出たsalesforce.comをはじめ、Google、Microsoft、Oracle、SAPといった大手のグローバルベンダーがこぞって参戦してきているPaaS市場にあって、国産の急先鋒としてどうすれば勝ち残っていけるか、だ。

 話を一気にグローバルへと広げたように感じられるかもしれないが、PaaS市場においては、もはや国内も状況は同じで、salesforce.com、Google、Microsoftが先行しているとみられる。そうした外資勢にサイボウズが挑む構図となっている。一方で、サイボウズもチームワーク・プラットフォームをコンセプトとしたkintoneはグローバルでも通用するとみており、虎視眈々と世界進出を狙っている。まさしく“国産PaaSの挑戦”である。

 そこで、今回の会見の質疑応答で、青野氏にこんな質問をぶつけてみた。kintoneを自前のクラウド基盤だけでなく、パートナー企業に運営委託する考えはあるか。また、それを含めて特定の大手グローバルベンダーと戦略的アライアンスを組むつもりはあるか、である。

 青野氏の回答は、「運営委託については、可能性としては模索している。ただ、まずは自前でできるところまでやるのが先で、現時点で優先度は高くない。また、グローバル展開を見据えて大手ベンダーとの戦略的アライアンスについても考えてはいるが、今のところ具体的な話はない」とのことだった。

 この質問は、筆者なりに伏線がある。これまで本コラム(関連記事参照)でも幾度か取り上げてきたが、自前クラウド展開については先ほど名が挙がった大手グローバルベンダーの間でも違いが明らかになってきている。例えば、SAPは自前クラウドにこだわらない方針を打ち出している。

 結局のところ、この論議は、クラウドサービスベンダーとしての立ち位置を最優先するのか、それともクラウドサービスとそれを構成する製品・サービスを提供する立場のバランスをうまく取りながらやるのか、によって違いが出てくる。これは、資本力、販売力、ビジネスボリューム、エコシステム、顧客とのダイレクトタッチなどを勘案した上で、とどのつまりはクラウド事業をどう考えるか、である。

 恐らくサイボウズのkintoneも遠からず、そうした分水嶺に立つ時が来るだろう。挑戦の仕方にもいろいろある。知恵を絞って、近い将来には国産PaaSとしてサービス名の由来である「筋斗雲」のネットワークを世界に広げてもらいたい。

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