違いが見えてきたMicrosoftとOracleのクラウド戦略Weekly Memo

先頃、クラウド事業で提携したMicrosoftとOracleの日本法人が、先週相次いで事業戦略説明会を開いた。その中で両社の提携に言及した。そこから見えてきたものは――。

» 2013年07月08日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

MicrosoftとOracleの提携に両日本法人が言及

 先頃発表された米Microsoftと米Oracleによるクラウド事業での提携が注目される中、両社の日本法人である日本マイクロソフトと日本オラクルが先週相次いで事業戦略説明会を開き、その中でそれぞれ両社の提携に言及した。

 まず7月1日に会見を開いた日本オラクルの遠藤隆雄社長は、Microsoftおよび同時期に発表した米salesforce.comとの提携についてこう語った。

 「世界を代表するクラウド事業者がOracleのクラウドテクノロジーを採用したことで、ユーザーにとってはOracle製品を幅広いクラウド環境で利用できるようになり、選択肢が広がった。さらに両社との提携は、Oracleがクラウドテクノロジーのリーディングカンパニーとして証明されたことを意味しており、パブリッククラウドだけでなくプライベートクラウドにおいても、Oracle製品の採用が広がると期待している」

 一方、翌日の7月2日に会見を開いた日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、「今回の提携は、Microsoftのクラウドプラットフォーム上でOracle製品を利用できるようにするものだが、ユーザーへの対応がバラバラにならないように、両社の間で技術的なすり合わせをこれから密接に行っていくことになるだろう」と語った。

会見に臨む日本オラクルの遠藤隆雄社長と日本マイクロソフトの樋口泰行社長(右)

 ちなみに、MicrosoftとOracleが先頃発表した提携内容の骨子は、現在Windows Server上でOracle製品を使っているユーザーに対し、Oracleが同じ製品についてMicrosoftの仮想化プラットフォーム「Windows Server Hyper-V」とクラウドサービス「Windows Azure」での利用を認証・サポートするといったものだ。

 つまりは、Windows環境でOracle製品を利用するユーザーに対し、カバーする範囲をクラウドにも広げた格好だ。これによって、OracleはWindowsユーザーに自社製品を引き続き拡販できる一方、Microsoftは自社のクラウドサービスの利便性を向上することができるとしている。

 両社がこうした提携に動いた背景には、コスト競争力を武器にこのところ企業向けクラウド市場で勢力を伸ばしつつある米Amazon.com傘下のAmazon Web Services(AWS)や米Googleに対する強い危機感があるとみられる。

違いは「大衆食堂」をやるかやらないか

 ただ、今回の提携内容からすると、両社の間にはAWSやGoogleに対抗しようという姿勢の強さに差があるようだ。提携内容を改めて見ると、Microsoftはクラウドサービスにおける垂直統合型ビジネス展開の強化を図ったのに対し、OracleはMicrosoftが求めるテクノロジーを提供した格好となる。

 これは、MicrosoftにとってはまさしくAWSやGoogleへの対抗措置となるが、Oracleにとっては「Oracleがクラウドテクノロジーのリーディングカンパニーとして証明された」と日本オラクルの遠藤社長が語ったように、自らのテクノロジーがクラウド市場で幅広く使われることを第一義としているように受け取れる。

 分かりやすく解説するために、クラウドサービスを「食堂」、クラウドテクノロジーを「食材」に置き換えて両社のクラウド戦略を見ていくと、商売としてはMicrosoftもOracleも競争力のある食材を基に食堂も手がけている。

 ただ、MicrosoftはAWSやGoogleに対抗するため、「大衆食堂」も積極的に展開しようとしているのに対し、Oracleに大衆食堂を運営する気はなく、むしろ、そこに向けて食材を積極的に提供しようという姿勢のようだ。とはいえ、MicrosoftもAWSへは食材を提供しており、Oracleと同様に「食材屋」としての商売は今後も積極的に広げていく構えだ。

 果たして、食材屋と大衆食堂の商売を両立できるのか。日本マイクロソフトの樋口社長に聞いてみたところ、「Microsoftは両方とも本気でやっていく。両立させていかないと、本格的なクラウド時代に生き残っていけない」との答えが返ってきた。相当な危機感である。

 樋口社長が語る危機感を推察すれば、クラウド時代は食堂が食材選びの主導権を握ると。したがって、主戦場となりうる大衆食堂でトップグループに入らないと、食材も合わせて大きな商売はできないということだろう。

 一方、Oracleのクラウド戦略に詳しい関係者からは、同社がテクノロジーに執着する理由についてこんな話を聞いた。

 「今後、クラウド市場ではかつてのPC市場と同じような現象が起きる。つまり、PC自体はどんどん薄利多売になる中で、PCメーカーにプロセッサを提供するIntelとOSを提供するMicrosoftばかりが巨額の利益を上げ、市場を牛耳った。Oracleはクラウド市場で、PCメーカーになるより“Wintel”になりたいと考えているようだ」

 先ほどの例え話で言えば、PCメーカーが大衆食堂でWintelは食材になろうか。この話はOracleの公式見解ではないが、大衆食堂をやるかやらないかがMicrosoftとのクラウド戦略における違いであることは間違いなさそうだ。

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