アライド・アイリッシュ銀行のプライベートクラウド導入戦略とは?Computer Weekly

アイルランドや英国で事業を展開する総合銀行でIT戦略を担当するボーデン氏。プライベートクラウドを積極的に活用し、コスト削減とITの対応速度向上を実現した。

» 2013年09月11日 10時00分 公開
[Lisa Kelly,ITmedia]

 アン・ボーデン氏は、新設された最高運営責任者(COO)として2012年7月にアライド・アイリッシュ銀行(Allied Irish Bank:AIB)に入社。経営陣の1人として、AIBの変革計画を指揮している。そして、この計画で極めて重要な役割を果たすのがクラウドテクノロジーだ。

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 AIBは総合銀行で、営業の大半はアイルランド共和国内の小口金融だが、北アイルランドと英国でも事業を展開している。AIBのミッションは、2014年までの黒字化とアイルランド経済の回復において中心的な役割を果たすことだ。

 AIBの戦略には、3つの大きな柱がある。

 中心になるのは、顧客(小口顧客から大企業まで多岐にわたる)への新たなコミットメントだ。効率化を進めてスタッフが接客時間をより長く確保できるようにする。

 また別の目標は収入増だ。コスト管理策により、継続して利益が上がる仕組みを作る。これについても、クラウドがコスト削減計画に組み込まれ、効果が期待される。

テクノロジーの重視

 AIBがテクノロジーとイノベーションの重視に舵を切ったのは非常に重要なポイントで、将来の見通しは明るい。顧客が利用できる取引方法が拡充されるだろう。顧客は、オンラインや電話など、さまざまな媒体を使って柔軟に取引できることを求めるようになった。AIBは、テクノロジーを活用してこの顧客のニーズに対応していく。

 ボーデン氏は金融業界の幾多の浮き沈みを生き抜いてきたが、現在ほど、金融業界はデジタル時代を受け入れて、顧客を第一に考えなければならないと感じたことはないという。

 「AIBは、アイルランド共和国内の2大銀行のうち規模が大きい方だ。デジタル化し、顧客サービスを向上するための大規模な変革を遂行している。デジタルバンクとなり、タイムリーに商品を提供することで、コストを削減し、莫大な価値を顧客に提供できるよう取り組んでいる。クラウドは、進化する市場の中でこの変化を起こしていくための戦略に含まれる」

 AIBは、プライベートクラウドの開発にOracleのテクノロジーを採用した。行内開発において、変化し要求の厳しさを増す市場に対応できるだけの技術力と柔軟性を確保するためだ。

 「金融危機以来、銀行に対する規制と収入を取り巻く状況はさらに厳しくなった。その一方で、顧客が日常的に持ち歩く端末に新しいテクノロジーが使われるようになり、顧客の期待は高くなった。顧客はどのビジネスパートナーとの手続きにも新しいテクノロジーを使いたいと考えている」

 このニーズに応えることがデジタル時代では極めて重要であり、AIBはプライベートクラウドを使うことで対応力が向上しているとボーデン氏は説明する。

 「クラウドを導入したことで、商品をスピーディに市場に投入し、テクノロジーを整理統合し、顧客にとっての可用性を高めることができている」

統合スタック

 レガシーサーバは、新しい資産に道を譲った。統合率、一貫性、レジリエンス(回復力)の向上を図りスタック全体をOracleベースとした結果、コスト削減につながる具体的な数字が出ている。

 ボーデン氏は、「COOとして、ビジネス環境への対応、コスト削減、柔軟性と応答性の向上を担当している」と話す。

 AIBのプライベートクラウドプログラムにより、Oracle Databaseの台数は10分の1になった。AIBは常にOracle Databaseを使ってきたが、このプログラムの実施以前は、データベースをサポートするためのハードウェアおよびテクノロジー一式を別に用意していた。

 統合スタックを導入する決め手になったのは、簡略化と効率化だ。導入に際しては、デメリットとしてベンダーロックインの問題も考慮されている。

 「ベンダーを1社に絞ることで、システム全体が簡略化された。プライベートクラウド内で問題が発生したら、連絡するのは1社で済む。既にこのメリットは現れている」

 現在では、プライベートクラウドがもたらしたさまざまな可能性を内部のスタッフに伝えることが、開発と対応の速度を上げるための優先事項となっている。つまり、対応力に劣るレガシー資産が足かせだった、従来の考え方からの脱却を図っている。

 「プライベートクラウドについての内部マーケティングを展開し、周知に努めている。以前の制約のある環境で仕事をしているときは、プランニングに時間がかかっていた。現在はデジタル時代にふさわしいペースで行動できる。スピーディな作業が可能なのだから、それを奨励する必要がある」

 これは金融業界にとって重要で、経済を活性化するカギだとボーデン氏は言う。新しいプライベートクラウドによって、中堅・小規模企業(SMB)市場向けのアプリケーションを8週間以内にリリースし、配布できるようになった。これは以前ではできなかったことだ。

 「SMBに融資を提供する必要があるが、SMBが必要とする融資を届けることは難しい」

 「以前は、着想を得た時点で、ウォーターフォール型の開発を始めただろう。その場合、運用および開発環境の準備に、さらに2、3週間かかる。目的のアプリケーションが提供されるまでには、幾つもの段階を経ることになるが、総じて、このサイクル全体にかかる時間が20%短縮された」

 AIBでは、開発ペースの向上によるメリットを享受しているという。ボーデン氏の話では、AIB内部の反応は上々のようだ。

 「ビジネスパートナーは、対応の速さに驚いている。IT部門はいつでも臨戦態勢にあり、いかなる形でもテクノロジーがビジネスの足かせになることはない。IT部門は打てば響くパートナーとして業務部門と連携できている」

明るい未来

 ボーデン氏は、市場から金融業界が受ける不測の変化がどのようなものであっても、今後5年間のAIBのプライベートクラウドの未来は明るいと予想している。「今後5年間は、先を見越して行動できるように、プライベートクラウドをさらに積極的に活用していく」と話す。

 プライベートクラウドは、クラウドの一形態だ。パブリッククラウドは現在、AIBのどの計画にも含まれていないが、選択肢から外れてはいない。「パブリッククラウドも検討対象外ではなく、いずれは特定のニーズに利用するだろう。プライベートクラウドはパブリッククラウドへと続く道になるが、現在大々的なテクノロジーの変更に関する全ての取り組みと開発は、内部のクラウド環境のみを対象にしている」(ボーデン氏)

 大手ベンダーはクラウドに資金を投下し、開発に時間をかけ、ビジネスチャンスに目を光らせている。AIBのような組織が「内部でクラウドを使って、コスト効率を上げよう」と考えるのは自然なことだとボーデン氏は話す。

 従来保守的だと思われてきた組織であっても、組織内でのクラウド開発が増えるのは必至だとボーデン氏は見ている。

 クラウドの使用にまつわるセキュリティの問題は懸念するほどでもなく、どちらかといえば、クラウドによってAIBのセキュリティは向上しているそうだ。

 「クラウドテクノロジーは、最先端の認証、セキュリティおよび暗号化テクノロジーを使っている。AIBはファイアウォール内でクラウドを使っているので、クラウドによってAIBの環境のセキュリティは一層強化されている」

 金融業界は、規制とセキュリティ要件の厳しさから保守的だと見なされてきた。AIBはそういった義務を認識しながらも、クラウドのようなテクノロジーを、真にデジタル時代の一員になるための変革プログラムの重要な要素だと捉えている。

 「AIBは、他社より先を行っていると思う。AIBは非常に革新的な組織で、技術的にもビジネスの面でも、非常に高い能力を有している。再建を進める上で最適な人材を採用しているので、クラウドを活用して目標を実現するために必要な技術がAIBにはある」

 ボーデン氏のインタビューは、そんな自信をのぞかせるコメントで幕を閉じた。

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