ソーシャルメディアの人気企業から取引依頼、商社の部長が信じたもの萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2013年10月18日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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どこで信用を調査するのか

 B氏は改めてインターネットでその会社を調べたが、確かに評価は上々で、Twitterのフォロワー数やリツイート数も多く、「これなら大丈夫」と思ったらしい。ただし、信用情報の照会ではその会社の情報は「該当なし」だった。

 B氏が確認したところ、その会社は直近までは全くの別会社であり、主な業態は「家具屋」だった。社員が社長の許可を得てレンタル業を始め、今月になって株式会社化したばかりだという。資金繰りが悪化したのは株式会社化した際の費用が想定外に膨らんだ結果であり、本業は黒字だという。だから信用照会をされても「該当なし」となるのは当然の事で、資金のやり繰りからどうしても大量のパイプ椅子をできるだけ早く売却して現金を得たいのだと説明があった。そこで、B氏は急いで代金を振り込んだのだった。

 経緯を聞いていた筆者にB氏は、「その後どうなったのかは話さなくても分かるだろう。あなたなら詳しいはずだ」と話した。そう言われて筆者は、「傷口に塩を塗ることはしたくないが、ひと言だけ。昔、君には『もっと頭を使え!』って良く話していたよな」と告げた。

 B氏が代金を振り込んだ後、A商社の社内では大変だったようだ。B氏は役員から散々嫌味を言われ、社長からも「ボーナスはあきらめろ!」と言われるほどだったそうだ。恐らく代金だけをだまし取られたのだろう。しかし、B氏としては腑に落ちないところもあった。相手の会社は「いいね!」もフォロワー数もリツイート数もたくさんある人気の企業だと思われた。信用調査には時間がかかり過ぎるので、せっかくの好条件をみすみす逃してしまうところだ。B氏としては思いつく限りに慎重に事を進めたと考えていたのである。

 B氏には悪いが、筆者はさらにこう告げた。

「その会社は『時間がない』と思わせるように仕向け、信用させるお膳立てもしていたわけだ。つまり、君のようなお人よしを待っていたというわけだよ」

 実際のところ、「いいね!」はお金でどうにかできる。国内業者なら1000件で1〜5万円程度、外国の業者なら10ドル前後で販売している。フォロワーやリツイート数もネットオークションで売られている。B君がこの事実を知っていれば失敗しなかったのだろうが、「それは本当なのか! 俺は知らなかったよ……」という反応ぶりだ。

 筆者は続けて、「YouTubeの再生回数も販売されている。以前にレストランの口コミサイトでは専門業者がサクラになって架空の口コミをして問題になったニュースを覚えているだろう。『いいね!』も同じだよ。前回の参議院議員選挙ではある候補者のフォロワーの大半が選挙権のない外国人のアカウントで占められて、しかもトルコから購入していた事実も明らかになったくらいだ」と説明した。

 ここまで言うとB氏はうな垂れ、「『もっと頭を使え!』と言ってくれた意味が今、ようやく分かった気がする」とつぶやいた。読者の皆さんも、このような「詐欺行為」にはだまされないように注意していただきたい。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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