食品の偽表示、確率論から導く「誤表示」では済まされない理由萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/2 ページ)

相次ぐ食品の偽表示は、情報セキュリティとも密接に関わるコンプライアンス上の大きな問題である。当事者たちが繰り返す「誤表示」という表現は、確率的にみても大きな誤りであることが分かる。

» 2013年11月08日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 筆を休めるという程ではないが、今回は情報セキュリティとも関わりの深いコンプライアンスについて触れてみたい。その理由は世間を賑わせている有名ホテルや旅館、レストランなどでの食品の偽表示問題があまりに深刻だからだ。なお、本稿は筆者の私見であることを予めお断りしておく。マスコミの浅過ぎる解説や国際的視点に欠けた解説などについてはあえて触れないでおく。

 阪急阪神ホテルズ社長の出崎弘氏の謝罪記者会見からはじまった一連の問題は、新聞やテレビでの表現を借りると「誤表示問題」とされている。作業中にテレビで流れた会見映像ではこういう発言をされていた。

  • 「今回に関しましては全くの無知、あるいは無自覚ということでございますので、私は“偽装ではない”と認識しております。誤表示です」
  • 「会社として、必要以上に原価を削って、利益を捻出しようというような指示、もしくは経営をしたことは全くございません」
  • 「いかにも高そうなネーミングにして、利益ならびに商品価値をあげようとしたわけではございません」

 その後、さまざまなホテルや百貨店が同じように「誤表示」として謝罪している。筆者はこの報道を最初に耳にした時に、誤表示ではなく、彼らが商品価値を上げること、利益を優先することから行った100%作為的な偽装であると感じざるを得なかった。当事者たちは、「この程度なら分からないだろう(ごまかせる)」と思っていたに違いない。

 筆者は行政機関や企業に、情報セキュリティだけでなくコンプライアンスについてもコンサルティングや啓蒙教育、有事対応の支援を20年以上も行ってきた。その経験から言えるのは、一連の「誤表示」の本当の裏側とは「偽装」「消費者をだます目的で会社全体が認めた行為」と考えるしかないというものである。

 ところが、一部マスコミなどを除いて新聞やテレビでは「誤表示事件」として扱われている。評論家もごく一部を除いて、「誤表示」という表現に鋭いメスを入れることなく、やんわりとした対応しかしていない。とても変だと感じる。これまでに発覚した「誤表示」の品目数はネット上で探してみるだけでも軽く100種類を超える。これらが本当に「誤表示」といい通すには、まずい「事実」がある。それは「誤表示」の全てが「高い食材→安い食材」になっているということだ。

 数学的に考えてみよう。「誤表示」というなら、本当は高い食材なのにうっかり安い食材と誤って表示してもいいはずだ。「利益を考えて誤表示したわけではない」と説明しているが、それなら「高い食材の方を使ってしまった」というケースがランダムに起こるはずである。「偶然です」と言い訳ができるだろうか。

 例えば、100種類の食材で誤表示が起きたと仮定する。すると、本来の確率は2分の1(表示より実際の食材が高いか安い)だ。しかし、一連のケースでの確率は1(常に安い食材)になっている。1品目の確率が2分の1(0.5)とすると、2品目の確率は4分の1(0.25)である。100品目の確率(0.5の100乗)は大よそ1000兆の100兆倍×1.26775分の1しかない。まあ、真面目にこういう計算をする方はまずいないだろう。

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