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» 2013年11月08日 08時00分 公開

萩原栄幸の情報セキュリティ相談室:食品の偽表示、確率論から導く「誤表示」では済まされない理由 (2/2)

[萩原栄幸,ITmedia]
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「うっかり高級食材を使いました」で謝罪は?

 名称の定義が専門家と辞書で多少違うとか、最初は高い食材でもその後の変更を「本当のうっかり」でメニューに記載し忘れたとか、そういう要素を多分に含ませても前項で示した確率をひっくり返すような論拠は、まず思いつかない。

 だが当事者たちは、悪意を持って顧客をだましたり、上司の指示など組織ぐるみで行為に及んだりした事実は無いと説明している。ついには「誤表示と申し上げた説明の仕方自体が間違っていた」なんて口にする方も現れた。これらの説明は明らかに「嘘」である。筆者が示した数字をひっくり返す事象はこの地球上に存在し得ない――そう断言できるぐらいの確率であるが、当事者の社長さんや経営陣の方々はご理解されないのであろう。

 結局は「誤表示」で押し切られ、最終的には「責任者の辞任」で決着という感じになるらしい。とても不快である。せめて素直に、「利益主導のための偽装でした。誠に申し訳ございません」と言えないのだろうか。墓場まで「嘘」のまま通すというなら、その精神は「お見事」というしかない。

 さらに相次ぐ謝罪会見の中で、某百貨店が“さらに”ミスを重ねている。それはこれらの対応策である。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という思考なのか、謝罪内容も防止策も、それ以前に謝罪会見した企業らと同じ内容であった。「おいおい、だから……」と言わずにはいられない。それは、阪急阪神ホテルズの1つの部門として機能しているレストランが起こした「誤表示」と、百貨店が大家さんとなっていてそこの店子が起こした「誤表示」では違う点があるからだ。

 某百貨店は、防止策として百貨店と入居している会社との間で、その表示について監視・点検するといっている。でも、それは可能だろうか。もし本当にチェックするなら、レストランなど食材をお客に提供する会社側が、例えば食材の伝票や仕入れ先に関する情報を全く資本関係のない百貨店側に提供するということになる。レストランがせっかく何年も苦労して開発したレシピについて、その仕入れ先や品目を全て百貨店側に提供することになるが、そんなことができるだろうか。

 たぶん実施するにしても、かなり玉虫色的な内容でしか公表できないだろう。百貨店側もそうである。これまでは店子の責任にできた。今後、万一同じ事象が発生したら、これからは百貨店が監督者としてその責任を負うことになる。そういう覚悟が本当に百貨店にあるのだろうか。

 仮に筆者が百貨店側の人間だとして、責任を負えないのでそういう担当はやりたくない。これまで婦人服ブランドの真贋などは百貨店の“目利き社員”が担っていたが、今後は築地市場だけで何十種類にも上るエビの真贋について、誰が責任を負い、チェックするのだろうか。

 言い逃れはもうやめていただきたい。「メニューの記載はバナメイエビですが、本当は伊勢エビでした。お客様を欺いてしまい誠に申し訳ございません」「チャーハンの材料表記がカニカマでしたが、正しくはタラバガニでした。来月から表記通りカニカマにしますので、ご安心ください」――こういう謝罪記者会見をぜひ見たいものだ。

 情報セキュリティの専門家がこういうところに意見しても仕方がないと思うので、これ以上深くは追求しない。今日も明日も「謝罪特売セール」は続くのだろうか。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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