元外交官が見通すグローバル化の本質、「スピード」と「多様性」で大競争時代を勝ち抜け2014年 新春インタビュー特集(1/2 ページ)

今、日本の企業が直面しようとしているグローバル化では、新興国の台頭による経済圏の拡大、資本取引の極大化、そして情報処理コストの極小化が同時に進行している。このかつて経験したことのないグローバル競争時代を日本企業は勝ち抜くことができるのか。その舵取りについて、元外交官の岡本行夫氏に話を聞いた。

» 2014年01月15日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
岡本行夫 1945年、神奈川県生まれ。1968年、外務省入省、経済畑を経て北米局北米第一課長を務めたのちに1991年に退官、岡本アソシエイツ設立。以来、国際問題の専門家として活躍、2012年には米マサチューセッツ工科大学国際研究センターのシニアフェローに就任する

 「凄まじい勢いで世界は膨張している。その根っこは人口の爆発的な増加であり、情報の爆発的な増加だ。日本もこのスピードに食らいつき、多様性を取り入れて社会発展の力に変えていかなければならない」と話すのは、外務省で経済畑を経て北米局北米第一課長を務めたのちに退官、以来外交評論家として活躍する岡本行夫氏だ。

 国連の2011年度版「世界人口白書」を見るとよく分かる。1802年、有史以来数千年をかけて10億人に達したと推計されるこの地球の人口は、その後、幾何級数的に増え続ける。わずか130年後の1927年、昭和の初めには20億人へと倍増、その30年後、ちょうど日本は高度経済成長期の1961年に30億人に達し、さらにスピードは加速していく。

  • 1802年 10億人
  • 1927年 20億人
  • 1961年 30億人
  • 1974年 40億人
  • 1987年 50億人
  • 1998年 60億人
  • 2011年 70億人

(国連 2011年版世界人口白書)

 一方、情報も1990年代前半にWorld-Wide Webとブラウザが登場して以来、凄まじい量の情報が生み出され、世界を駆け巡っている。米国では15才の高校生、ジャック・アンドレイカ君が、すい臓がんを劇的な低コストで早期発見する検査方法を開発して話題になっているが、すべてはGoogleとWikipediaで調べることができたと彼は話している。単なる量だけでなく、科学論文をはじめとするさまざまな人の英知が共有されているのだ。

 「わたしがシニアフェローを務めているマサチューセッツ工科大学は、世界の大学のナンバーワンにランクされているが、それはとてもオープンだからだ。2000以上のカリキュラムがインターネットで公開され、だれでも意欲さえあれば学ぶことができる」と岡本氏。

 肝心なのは、膨大な情報を駆使する能力があるかどうか。先進国と発展途上国は同じ条件だ。

 「だれでも高度な教育を受け、それによって生産性を高めることができる時代。もはや人口の増加も、貧困や疾病をもたらすものではない。発展途上国においても生産性向上と人口の増加によって市場をつくり、大きく伸ばすことができる。世界では、凄まじいスピードで既存の枠組みが崩れ、新しい枠組みが生まれようとしている」(岡本氏)

多様性こそ前進する力に

 日本と日本企業が直面するグローバル化には、こうした枠組み変化の「スピード」に加え、さらに「多様性」が立ちはだかると岡本氏は指摘する。長らく民族の同質性に胸を張り、1980年代には多民族国家の米国に勝る成功を収めたことで、さらに対応が遅れたからだ。

 「多様性こそ社会の発展に寄与する。それを教えてくれたのは、米国に進出した自動車メーカーの幹部だった。日本の優秀な工員たちは、工場で発生した問題を自分たちで解決していけるが、その反面、問題が顕在化しにくい。一方、米国ではラインを止め、みんなが分かる言葉にしてマニュアルを改訂し、前に進む。国家としても、さまざまな民族、宗教、文化が相克する中で、前に進む新たな力が生まれている。それを知るべきだ」と岡本氏。

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