ビル・ゲイツ会長の引き際Weekly Memo

Microsoftの次期CEO選びが大詰めを迎えているようだ。同時にビル・ゲイツ会長の退任も検討されているという。同会長は自らの引き際をどう考えているのだろうか。

» 2014年02月03日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

Microsoftがゲイツ会長の退任を検討

 複数の欧米メディアが1月30日に報じたところによると、米Microsoftが次期CEOにクラウド・法人部門責任者のサトヤ・ナデラ氏を起用する準備を進めているという。同時に共同創業者であるビル・ゲイツ会長の退任も検討されているようだ。早ければ今週にも発表されるとの見方もある。

Microsoftのビル・ゲイツ会長 Microsoftのビル・ゲイツ会長

 ナデラ氏が次期CEOに起用されれば、昨年8月に退任の意向を表明したスティーブ・バルマー現CEOの後任となる。ナデラ氏はインドのハイデラバード出身で、米Sun Microsystemsを経て1992年にMicrosoftへ入社。ビジネスアプリケーションやオンラインサービス、サーバビジネスなどの部門で要職を歴任し、現在は「クラウド&エンタープライズ」グループのエグゼクティブバイスプレジデントを務めている。

 一方、ゲイツ会長については、慈善活動に専念するとして2008年に経営の一線から退いたものの、依然として社内に影響力を持つとされ、次期CEOの権限を抑制することになりかねないとして、大株主の一部が退任を求めているという。後任の会長には、社外取締役で次期CEO選びでも中心的な役割を担っているジョン・トンプソン氏の名前が浮上しているが、当のゲイツ氏は引き続き積極的な役割を果たす意向があるともいわれている。もし、会長職を退いたとしても取締役にとどまるとの見方が有力のようだ。

 ゲイツ氏は1975年にMicrosoftを設立し、同社を世界最大のソフトウェア会社に育て上げた。設立直後に入社したバルマー氏のCEO退任とともに会長を退くことになれば、同社の経営体制は創業後、最も大きな転機を迎えることになる。

 こうした動きの背景には、Microsoftが今、「デバイス&サービスカンパニーへの変革」を掲げて、創業以来のビジネスの大転換を図ろうとしていることがある。

 デバイス&サービスカンパニーへの変革とは、従来のソフトウェアに変えてデバイスとサービスを展開するのではなく、ソフトウェアを軸にしてフロントエンドにデバイス、バックエンドにクラウドサービスが広がっていくイメージだ。そこで最も重要なポイントは、ソフトウェアを軸にデバイスとクラウドサービスが分断することなくシームレスにつながっていることである。

 シームレスにつながることから、多様なデバイスからオンプレミス(自社での運用)ベースのソフトウェア、そしてクラウドサービスをさまざまな形で組み合わせて提供し、それらを用途に応じて選べるようにする。それによって、既存のソフトウェア資産も引き続き利用できるようにする。これが、同社が描くデバイス&サービスカンパニーである。

ゲイツ会長に期待したい引き際の美学

 バルマー氏がCEO退任の意向を表明した際も、その理由としてこのビジネスの大転換を挙げた。デバイス&サービスカンパニーへの変革を打ち出した同氏は、その実践を新たな経営体制に委ねた。その意味では、クラウドサービスを担当してきたナデラ氏が次期CEOに起用されれば、変革がスムーズに進む可能性は高まる。

 サトヤ・ナデラ氏 サトヤ・ナデラ氏

 ただ、焦点となるのはゲイツ氏の存在だ。ナデラ氏が次期CEOに起用された場合、ゲイツ氏が会長にとどまるほうが統制を図りやすいとの見方もあれば、大株主の一部の声にあるように次期CEOの権限を抑制することになりかねないとの見方もある。

 ゲイツ氏は自らの引き際をどう考えているのだろうか。今回の動きについてMicrosoftは一切コメントしておらず、複数の欧米メディアによる報道も「事情に詳しい複数の関係者」から得た情報を基にしているが、創業者であるゲイツ氏が誰よりもMicrosoftを愛しているが故に、創業以来のビジネスの大転換にさまざまな思いをめぐらせていることは想像に難くない。同氏も相当、自らの立ち位置に頭を悩ませているのではなかろうか。

 ただ、ここからは筆者の個人的見解だが、もしゲイツ氏が会長を退任するのであれば、Microsoftの取締役会の要請を受けてではなく、自ら引き際を示してほしいと強く期待したい。

 「変わらないで生き残るためには変わらなければならない」とは、名作映画「山猫」で有名になった台詞だが、Microsoftがこれから本格的に挑むビジネスの大転換、およびそれを推進する新たな経営体制は、この言葉通りのような気がしてならない。ゲイツ氏には自ら引き際を示して、次代へ向けた同氏ならではのメッセージを発信してもらいたい。

 最後に、本連載も今回で300回目を迎えることができました。あらためて読者の皆さん、関係者の皆さんに感謝いたします。今後も引き続き、よろしくお願いいたします。

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