ソニーのVAIOはどこへいく? 日本での影響を考える萩原栄幸の情報セキュリティ相談室 番外編(1/2 ページ)

今回は情報セキュリティの話題から少し離れるが、筆者にとって色々な意味で思い入れのあるソニーのVAIOの売却に関するニュースについて考えてみたい。

» 2014年02月14日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 10年ほど前の情報セキュリティセミナーにおいて、AppleとMicrosoftについて説明をしたことがあった。その際に、参考となる比較として家庭用ビデオ戦争を引き合いに出した。それは、1975年にソニーのβ方式が販売され、翌76年に当時の日本ビクター(現JVC)がVHS方式を販売した競争のことである。

 技術者の視点ではβ方式の方が優秀であったものの、日本ビクターはVHSの特許を公開し、どの家電メーカーでも特許料の支払いなしで生産できるような戦略をとった。そのため、生産各社で競争が発生し、VHSの性能は飛躍的に伸びていったため、80年代の前半には明らかにVHS陣営の勝利となり、ほどなくβ方式は市場から消えていった。

 AppleのMacはとても斬新で洗練されてはいたが、筆者の記憶ではWindows 3.1の頃にそのシェアはほぼ拮抗していたと思う。ところが、その後のWindows 95、そしてWindows 98の全盛期を過ぎた頃にはビジネスユースで一部の業界を除き圧倒的にWindowsの勝利となった。その一因は、やはりApple一社で製造するのと、その他多数のメーカーがWindowsのPCを製造するという体制との差があったことは否めないだろう。その時の筆者の実感としても、魅力的な製品はApple側だった。

 Windows陣営のPCメーカーは、どこもWindows OSを使用するため、製品において際立った差別化を図るのは難しい。近年はその傾向に拍車がかかっているわけだが、その中でもソニーのVAIOは異彩を放っていた。他には、わずかにビジネスユースのノートPCでパナソニックのLet's noteが、サーバではHPが頭一つ抜きんでているという状況ではないだろうか。

 この分野で急成長しているのが、2004年12月にIBMからThinkPadブランドとともにPC部門を買収したLenovoである。昨年は今までシェア1位のHPを抜いて世界1位の座を占めている。日本のメーカーは全て「その他」の中にひしめいている状態だ。NECなどはLenovoに生産をほぼ委託している状況である。

 この様な状態のPC市場でソニーのVAIO売却のニュースは、とてもショッキングであった。日本産業パートナーズに譲渡されるというが、この会社はメーカーではない。今後、さらにどこかの企業に売却される可能性も有り得るということだ。

PC事業売却に関するソニーの発表文

 この事案は、同時に発表されたテレビ部門の分社化とは大きく異なる。PC部門は完全に別の組織へ譲渡されるという点だ。正確には同社のWebサイトにも記載されている通り、主要な人員が新会社へ移籍するとか、資本の5%をソニーが出資することだが、ソニーがこの事業から事実上完全に撤退するという意思表示であることに間違いない。

 一部には、これによってもっとVAIOらしい製品が出てくると期待する専門家もいるが、筆者は若干疑問を持っている。確かに、以前のVAIOはWindows陣営の中では異色であり、ソニーらしい輝きがあった。ところがここ数年、ソニーはシェアを伸ばそうとするあまり、否応なく低価格化、大衆化していった。特に中国市場向けを中心としたVAIOは明らかに異色ではなく、単純に低価格PC製品の1つに過ぎなくなっていった感じがしていた。

 今回の施策がソニーの未来戦略において、「テレビはあるがPCは存在しない」というのが見てとれる。直ぐにPC事業が消滅するわけではないが、中核事業には成り得ないということなのだろう。これは、PC大好き人間にとっては極めてショッキングな出来事ではないか。

 今も多くの人たちがPCとともに生活をしている。筆者も書斎にデスクトップPCが5台、ノートPCが6台ある。しかし、その利用率は確かに減っている。その分、タブレットやスマートフォンに取られているという状況だ。秋葉原がその昔、電気部品のパーツ街からPC専門街へと変化していったが、今ではどうだろうか。

 PCショップの大手、中堅がどんどん消えており、今では世界に冠たる「萌え街」に変化していっている。「グラフィックボードの最新は?」「CPUのクロックアップでの小技は?」「AMDとIntelの性格の違いは?」「マザーボードのお買い得なものは?」「PCの組み立てはどうすれば?」という会話が圧倒的に多かった秋葉原……。今ではその面影はほとんど無くなっている。

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