富士通社長が語るクラウドとSIの関係Weekly Memo

富士通が先週、経営方針説明会を開いた。その概要とともに、トップが語ったクラウドとSIの関係に注目したい。

» 2014年06月02日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

富士通が中期の成長戦略を発表

 「これまでは構造改革を優先してきたが、これからは成長戦略の推進に注力していきたい」

経営方針を説明する富士通の山本正已社長

 富士通の山本正已社長は5月29日、同社が開いた経営方針説明会で開口一番、こう語った。同氏は会見で、2016年度の営業利益を2013年度比70%増の2500億円にする計画を発表。達成すれば、会計基準は異なるが2000年度の実績を上回って最高益になる。

 ただし、2016年度の売上高については、主力のテクノロジーソリューションで2013年度比17%増の3兆8000億円を目指すことを明らかにしたが、全体については「ユビキタスソリューションおよびデバイスソリューションでまだコミットできない部分がある」(山本氏)として明らかにしなかった。

 成長戦略の柱となるのは、既存業務システムのモダナイゼーションからビジネスイノベーションに向けた「企業向けICT領域の拡大」、健康・医療や交通・車、食・農業などのソーシャルイノベーションに向けた「新たなICT活用領域の拡大」、事業体制の見直しやデリバリー機能の強化に向けた「グローバルでのビジネス領域の拡大」の3つだ。

 山本氏はこうした成長戦略の実現に向けて、2016年度までの3年間に2000億円を投資することも明らかにした。内訳は、ビジネスイノベーション領域に1000億円、ソーシャルイノベーション領域に500億円、グローバルデリバリーの強化に500億円といった具合だ。

 成長戦略の3つの柱のうち、ここでは「企業向けICT領域の拡大」にフォーカスを当てたい。山本氏は「企業においては売上・利益に直結するICTの活用がますます重要になってきている」とし、特にビッグデータを活用した現場でのビジネス革新に注力していく意向を示した。そして、それを支える商品・サービス分野として、クラウド、SDN、モバイル、ビッグデータ、セキュリティ、SIの6つを挙げ、それぞれに顧客への提供形態を整備していることを説明した。

 この6分野のうち、クラウドとSIについて少し説明を加えておこう。山本氏はクラウドビジネスについて「当社の特徴は顧客ニーズに合わせて適材適所のクラウド活用を提供できることにある」と強調。既に多様なクラウドサービスを豊富にラインアップしており、それらのインテグレーションにも柔軟に対応できると説明した。また、そのためのエンジニアを2000人規模まで育成したことも示した。

 さらに、次世代クラウドプラットフォームの開発にも取り組んでいる。山本氏によると、「大量データの高速処理やクラウドの多様な利用形態に柔軟に対応するため、SDNや超分散処理などの最先端技術を駆使したクラウドプラットフォームを開発中」とのこと。このため、クラウドとSIの両事業部門からエンジニアをピックアップし、社長直轄の開発推進組織を新設したという。

問われるサービスインテグレーションの実効性

 一方、SIについては「ビジネスイノベーションに対応したシステム開発は、従来の大規模システム開発とは異なるアプローチが必要だ」(山本氏)として、従来の品質重視の開発手法に加え、機動性を重視したアジャイル開発を強化していく構えだ。

 また、ソフトウェアやネットワーク、運用サービスそれぞれの専門エンジニアと、顧客の業務やシステムに詳しいフィールドSEをインテグレーションサービス部門として統合再編し、ビジネスイノベーションに対応する体制を整えたとしている。

 こうした説明に対し、筆者は会見の質疑応答で、従来から論議のテーマとなっているクラウドとSIの関係について尋ねてみた。質問の内容は、今後クラウドサービスがさらに普及していくと、開発手法をどう変えようともSI自体が減少していくのではないか、というものだ。これに対し、山本氏は次のように答えた。

 「確かに、これまで手組みで構築していたようなSIは徐々に減少していくだろう。しかし一方で、これからはパッケージベースのトータルサービスやクラウドを利用した多様なサービスが増え、それらをインテグレーションするニーズが高まっていくと見ている。つまり、同じSIでもシステムインテグレーションからサービスインテグレーションが一層求められるようになる。当社では従来のSIノウハウも生かしながら、そうしたシフトに注力している」

 どう注力しているのかは、先述したクラウドビジネスへの取り組みが答えになるのだろう。とりわけ、クラウドインテグレーションに対応する2000人規模のエンジニアがいることは、富士通の大きな強みといえる。

 ただ、同じSIでもシステムがサービスに変わるのは、テクノロジー視点からビジネス視点に変わることを意味する。果たしてビジネス視点のエンジニアをどれだけ育成できているか。これは富士通に限らず、どのクラウドベンダーも頭を悩ませている問題だが、SIベンダーの国内最大手でもある富士通がそうした人材育成にどう取り組み、実効性を上げているかが注目されるところだ。

 ちなみに、富士通はクラウドビジネスについて、2013年度実績で1870億円の売上高を2016年度には3500億円に拡大させるとしている。その目標達成度合いとともに、商談プロセスにおいてどのような評価が表れてくるか、注目しておきたい。

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