なぜ日本では「仮想マシンに管理シールを張っちゃう」のか。でも、あなたもサーバ仮想化を「コスト削減」のため、仮想マシンを「仮想的なサーバマシン」ととらえていないだろうか。今回は、日本人の「管理したい欲」と「リソースプール」を軸にした欧米との意識の違いを紹介する。
前回、私の体験談をもとに「ライブマイグレーション申請書が必要だったり」や「仮想マシンに管理シールを張っちゃう」という例を紹介しました。
笑い話に聞こえたかもしれません。でも、あなたもサーバ仮想化を「コスト削減」を目的にしていたり、あるいは仮想マシンのことを“(仮想的な)サーバマシン”ととらえていないでしょうか?
インターネットには数々の海外での事例が公開されています。欧米企業がサーバ仮想化を導入する一番の目的はコスト削減ではありません。コスト削減は二の次です。複数の物理サーバを粘土のようにひとかたまりにして、個々のハードウェアを抽象化する「リソースプール」こそが最大のメリットとされています。
海外から私のもとに送られてくるベストプラクティス(成功事例)を見ても一緒です。仮想マシンはVirtual Machineとは呼ばれますが、多くの成功者はそれを“サーバマシン”とは見ていません。“サービス”や“インスタンス”といったように、アプリやデータベースと同列、もしくはそれに近い存在としてとらえています。地に足がついておらず、宙に浮いてフワフワ自由に行き来する存在であるため、ライブマイグレーションに何の違和感もないそうです。申請書どころか、むしろ「勝手に動いてくれた方がラクだ」と考えています。
現場のエンジニアの方はお気づきになったかもしれません。これは、日本と全く逆の結果を生んでいます。欧米企業では、日本ではあまり使われない「リソースプール」「仮想マシンの自律配置」機能が、欧米のITにとっては逆に魅力であり、必須であるとされているのです。
実はこの考え方の違いは、サーバ仮想化だけではなく、クラウドの導入・検討にも影響します。作ったり消したりを繰り返すクラウドの世界では、さまざまな場面でランダムなUUID(Universally Unique Identifier)が使われています。管理番号やホスト名、IPアドレスはもちろん存在しますが、これらを連番にするとか、管理者の好きな値にするというのは簡単なことではありません。“仮想マシンをきちんと管理すべき”と考える日本人にとって、これは違和感であり、悩みの種になります。
よく聞く例が、「この仮想マシンは1号機だから『01』という番号を使いたいのだけれど、『03』からしか付けられない。気持ち悪いからどうにかして!」といったものです。おそらく理由は事前検証などでその番号をすでに使ってしまったからなのですが、一度割り振った値を再利用するのはいろいろと面倒だったりします。
では、どうすれば意識を改革できるでしょう?
試しに、自身が担当する仮想化基盤のMACアドレスをまじめに管理しようと考えてみてください。関連する物理サーバや仮想マシン・スイッチすべて洗い出し、見やすいようにソートする……。イヤになるか無意味に感じるかのどちらかだと思います。
そうです。仮想化やクラウドの世界において、すべてをまじめに管理するというのには限界があります。諦めて中途半端になってしまうのであれば、最初からラクする方が正解なのかもしれません。
次回はこのような「運用」の違いについて、もう少し掘り下げてみたいと思います。
日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバー製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。
カバーエリアは、x86サーバー、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション
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