「この言い方って、もしかしてパワハラ?」――最近、パワハラ通報を恐れるあまり、部下を叱れない上司が増えているという。そんな恐怖に負けず、毅然とした上司になるためにすべきことは。
「最近は、ちょっと注意しただけで“パワーハラスメント(以下、パワハラ)”と言われてしまうから、怖くて何も言えない……」
「そうそう、“パワハラ委員会”とか“パワハラホットライン”に通報されちゃうんだよね」
新米管理職の人たちからこんな声を聞いたのは、とある企業の管理職研修だった。その言葉からは、彼らがいかに部下から「パワハラ上司」と思われることを心配しているかがうかがえる。
彼らがおびえる気持ちはよく分かる。なぜなら、指導のつもりの言動が“パワハラ”と受け取られてしまうことがあるからだ。例えば管理職、Aさんの体験を聞くと、指導をためらう気持ちも理解できる。
Aさんにある日突然、本社から「パワハラでは、という連絡があったので、事情を聴かせてもらえますか?」という電話がかかってきた。電話の主は、総務部の“パワハラホットライン”担当者。驚いたAさんは思い当たる節を頭の中で考え始めた。
そして思い出したのが、1週間ほど前の出来事だった。配属されて半年ほどの新入社員が、度が過ぎるミスを連発したため、少し厳しめに注意したのだ。もちろん、人前で頭ごなしに叱ったのではない。別室に呼び、どんな原因でミスが起こっているのかを本人に確かめた上で、犯したミスが後の工程にどのような影響を及ぼすかを話すなど、きちんと対話をしたはずだった。しかもその時、新入社員は、「申し訳ありません。以後、気をつけます」と素直に応じたのだ。
当然、Aさんは、その件は終わったものと思っていた。しかし、その新入社員はパワハラだとホットラインに連絡していたという。
Aさんの事情説明や周囲の社員の話から、パワハラホットラインの担当者は「通常の指導の範囲」と結論づけたが、Aさんはこの経験から、「怖くて新入社員の指導も及び腰になっている」と話す。
このケースの問題は、Aさんの考える“指導”を新入社員がパワハラと捉えてしまった点にある。どこまでが“通常の指導”で、どこからが“パワハラ”なのかという認識が、上司と新入社員との間でずれていたわけだ。
ボタンの掛け違いはどこで生じたのか――。それを考えるにはまず、パワハラの定義を知っておくことが重要だ。
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