2016年1月からスタートするマイナンバー(社会保障と税の共通番号)制度は、企業においてもさまざまな対処が求められる。とりわけ、経営者は何をなすべきなのか。「守り」と「攻め」の両面から勘所を示したい。
マイナンバー制度が企業にとっても大きなインパクトをもたらすことは、行政機関の告知とともに、ここにきて多くのメディアも取り上げるようになり、徐々に認知されつつある。
だが、企業としての実務的な取り組みや情報システムにおける対策などは数多く取り上げられているものの、経営者自身が何をなすべきかについては、あまり論議に上っていないようだ。
そこで本稿では、マイナンバー制度に詳しいNEC 番号事業推進本部の戸田文雄 理事兼本部長と小松正人シニアエキスパートからうかがった話をもとに、マイナンバー対応に向けて経営者がなすべきことについての勘所を示したい。
2016年1月以降、社会保障や税に関して行政機関に提出する書類については、マイナンバーの記載が必要となる。従業員への給与の支給や保険、年金などに関わる手続きにおいても、従業員本人および扶養家族のマイナンバーを記載することが求められる。
企業は、そうした運用を適正に行えるような体制を制度がスタートするまでに整える必要がある。残された時間を考えれば、もはや“待ったなし”の状況だ。
制度対応に向けた体制づくりは、企業にとってはいわば「守り」を固める取り組みだが、まずはここで経営者がなすべき重要な役割がある。その役割を分かりやすくするためにも、どのような体制づくりが望ましいのかを先に説明しておこう。
図1に示したのが、そのイメージである。企業におけるマイナンバー対応は、人事・給与関連業務を担う人事・総務部門が受け持つイメージがあるが、マイナンバーを扱うのは同部門だけではない。
例えば、社外の個人へ業務を委託している場合、企業がその個人に報酬を支払う際に作成する支払い調書も法定調書になることから、個人からマイナンバーを取得し、記載する必要がある。パートタイマーやアルバイトとの雇用関係なども同様だ。そうした点を踏まえると、社内のすべての組織部門が関係することになる。つまり、マイナンバー対応の体制には、すべての組織部門が関わる必要がある。
そのうえで体制づくりの最大のポイントになるのは、マイナンバー対応を主導する全社横断のタスクフォース(TF)チーム(統括部門)を設けて、体制の“扇の要”に据えることだ。このTFチームは、組織的には人事・総務部門や経営企画部門など、企業個々の特性も踏まえてどこに設置しても構わないが、できれば各部門から人材を集め、マイナンバー対応の取り組みを主導する権限を担う特別チームとして、社内を機敏に動き回れるようにすることが望ましい。
なぜならば、TFチームは、図2に示すようにマイナンバー対応の取り組みにおける準備段階で、全社組織をまたぐ形でさまざまな作業を主導するからだ。ちなみに、図2では、TFチームが行うべき「業務への影響調査」や「対応方針の検討」は、2015年半ばまでに終えるのが望ましいことを示している。まさしく“待ったなし”の状況である。
さて、こうした体制づくりにおいて、経営者がなすべき重要な役割とは何か。それは、この体制づくりそのものを強いリーダーシップで押し進め、TFチームのリーダーを任命してマイナンバー対応に関する権限を与え、その後ろ盾となって全社的な取り組みの“旗振り役”になることだ。その際、当然ながら、権限は与えても責任は自らが担う。経営者にはその“胆力”が求められる。
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