ITで働くなら挑む? 「成人」対象のセキュリティ競技会を開くワケ

国内外でセキュリティ技術を競う大会が盛んに行われている中、トレンドマイクロが「成人」と「地域」を参加条件にしたちょっとユニークな大会を開く。その狙いとは?

» 2015年08月20日 08時00分 公開
[國谷武史ITmedia]

変更履歴

初出時にオンライン予選開催日が「8月22日〜23日」とありましたが、主催者都合により「9月26〜27日」に変更されました。本記事の内容も変更しました。


 ITセキュリティの重要性が高まる中、セキュリティ技術の“腕”を競う大会が海外で盛んに行われ、国内でも日本ネットワーク・セキュリティ協会(JNSA)が開催する「SECCON」など競技イベントへの関心が高まる。そうした中、トレンドマイクロが参加条件を「アジア太平洋地域に住む20歳以上」とするちょっと風変わりな条件の競技会を実施する。

ちょっと変わったセキュリティ競技会

 同社が9月26日から行うのは、「Trend Micro CTF Asia Pacific & Japan 2015」というイベント。9月26日〜27日にオンライン予選、11月21日〜22日に都内で決勝を開く。参加できるのは、37の国・地域に住む20歳以上の在住者。オンライン予選を突破した上位10チーム(決勝のみ1チーム最大4人まで)が決勝に進出できる。優勝チームには賞金100万円と、12月に台湾で開かれる「HITCON CTF 2015 Final」への出場権が贈られる。

 世界各地で開かれるセキュリティ競技会の参加資格は様々だが、基本的に年齢や居住地域といった制約を設けるケースは少なく、「学生限定」のように、一般枠とは別に特別枠を設けて実施するイベントも多い。トレンドマイクロが一風変わった参加条件を設けるのはなぜか。

 イベントを担当する上級エバンジェリストの染谷征良氏は、「当社の理念にデジタル世界を安全にするというものがあります。昨年まで学生向けのプログラミングコンテストを実施してきましたが、今年は違った取り組みをしてみたいと思い、デジタル世界を支えているエンジニアを中心とした方々のためのイベントを企画しました」と話す。

 国内では標的型サイバー攻撃の被害拡大などの問題からセキュリティ人材のニーズが急速に高まるものの、人材不足が指摘されている。

 「多くの企業や組織で高度な技術力を持つ“スーパーハッカー”を増やすべきだといった風潮があります。しかし当社は、“スーパーハッカー”の数を増やすというより、ITエンジニア全体のセキュリティに関するスキルや知識の醸成を急ぐことが課題だと考えています」と染谷氏。そのため、実務でITに携わる人を念頭にした参加資格を設定したという。

上級エバンジェリストの染谷征良氏

 こうした競技会は、セキュリティカンファレンスの中の1つのイベントや業界団体などの主催で行われることが多く、セキュリティ企業が独自に実施する例はあまりないという。同社では独自色を出すために検討を重ね、標的型サイバー攻撃やIoT(モノのインターネット)、制御システムなど、企業や組織のITやビジネス環境を取り巻くテーマも取り入れ、参加者が現実に近い形でセキュリティ技術の知識やスキルを競い合える内容を準備した。

 オンライン予選は6カテゴリ計30の設問で得点を競う「ジェパティ」形式、決勝は各チームが疑似的に攻撃側と防御側のそれぞれの立場に分かれて戦う「アタック&ディフェンス」形式という競技構成となる。賞金額の設定なども、ITで仕事をする人に魅力的なインセンティブを考えた。

 「ITシステムの開発や運用、提供までITで働く全ての方々にとってセキュリティが重要なテーマになっています。競技会をそのための技術やノウハウ、意識の向上につながる場として活用していただきたいと考えています」と染谷氏。

 参加応募は8月19日時点で想定の300チームを上回る450チーム以上に達し、約6割を海外参加が占める。決勝のチームの人数制限があるものの、構成は自由。日頃からコミュニティなどでつながりのある人たちがチームを組んだり、企業が有氏によるチームを結成したりと、その形は様々だという。

 なお、もう1つの参加条件となる米州を除いた「アジア太平洋の37の国・地域」も、同社の独自色を打ち出した点になる。「欧米のIT企業が多い中で当社はやはり日本とアジアが中心ですし、CEOのエバ(エバ・チェン社長兼CEO)もアジア出身ですから、こだわった部分ですね」(染谷氏)

参加条件はこれらの国・地域に住む20歳以上

 染谷氏によれば、このイベントを同社の売上拡大や人材採用などにつなげる意向はあまりないという。競合他社の出場も断らない。「もちろん少しはビジネスへの効果も期待されますが、それよりもセキュリティ全体の向上につながることが重要です。多数のボランティアにも協力をいただいていますので、今後も毎年実施したいと考えています」と語る。

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