「優先席付近では電源オフ」? 携帯電話利用にみるルールのあり方萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(3/3 ページ)

» 2015年10月02日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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ルールの理由は明確に

 携帯電話の電源オフは厳守か、マナーか。まだまだおかしい状況は残っているものの、今回のルール変更は一歩前進したと思える。しかし、それでも鉄道会社やバス会社によってルールがまちまちになったままだ。日本は、米国のように州単位でルールが全く違うような社会ではないだけに、ルールを全国で統一すべきだと思う。

 今回のルール変更もJR東日本とJR西日本だけであり、その他のJR九州やJR四国、JR北海道などは変更されていない。私鉄にいたってはバラバラでバスも同じ様な状況だ。これでは利用者がますます混乱するだろう。総務省では「混雑時は電源オフというが、この混雑時とはどういう状況なのか」との問いに、「体が触れ合う程度」としているが、あいまいな回答だと思うのは筆者だけだろうか。

 これら今まで列挙したものは全てマナーの範囲であり、科学的事実に照らして「おかしい」と感じるルールだ。決して「赤信号で車は止まれ」というレベルのものではない。だからこそ同じ日本国内でも、会社によってその内容に差が出てくる(それでも統一した方がいいという見解は同じだが)。

 ところが、この「マナー」はいつの間にか拡大解釈され、「ペースメーカーに悪い影響を与え、死に至らせる原因になる可能性が高い」という考えに変化した。マナーから逸脱し、「赤信号を無視した車と同じ扱い」になってしまったというのが筆者の見解である。確かにできる限り「マナー」として順守した方がいい。しかし、それを強制するには、あまりにも根拠が希薄だったのではないだろうか。

 例えば、エスカレーターの立ち位置は関東では左側に立ち、右側を空ける(関西は逆)。片側を空けるのはエスカレーターを歩く人のためという“暗黙のルール”があるが、そのルールが逆に危険であると、論理的にはわかってきた。そもそもエスカレータが歩いてはいけない機器であることを認識している人は少ない。そこで関東では鉄道会社が「右側に立って」という運動をはじめたが、通勤・通学時間帯など人がごった返している状況では鉄道会社の指示通りに右側に立つことなどできない(関連記事)。実際に、関西から来たと思われる人が右側に立ってしまい、後ろから「どけ」と言わんばかりに罵声がいくつも浴びせられているのを見たことがある。

 エスカレーターの場合、せめて「下りは駆け足禁止」と法律で強制してもいいのではないか。先日も片側で立っていた老人と駆け足で降りて来た中年のサラリーマンがぶつかり、転げ落ちそうになった老人を受け止めた。もし、受け止められなかったら、老人は寝たきりになっていた可能性が極めて高い。80歳を超えると、転んだだけで寝たきりになってしまう。その事実をこの中年の方はご存じないのだろう。本当に危険な行為は厳重に禁止すべきだと思う。

 こうしてみると、社会には根拠が曖昧なまま呼び掛けられるルールが少なくない。筆者としては「優先席」という概念自体も本当は不満だ。そもそも、どんな場所であろうと老人や不自由な人には席を譲るべきだ。それができない世の中なので、まずはできるところから改善するしかないという現実的な考えだが、きちんとその論理を示さなければ、「優先席じゃないから譲る必要はない」と考え出す人間もいる。なぜ、それが社会のルールなのかをきちんと示すようにして、ルールが機能するようにしていくべきではないだろうか。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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