HALは実現するか――研究者6人が語るAIの現状と将来Weekly Memo(1/2 ページ)

機械学習をはじめとしたAI(人工知能)技術を活用しようという動きが活発化している。この分野の第一線の研究者たちは、現状や将来をどのように見ているのか。

» 2016年02月29日 17時00分 公開
[松岡功ITmedia]

活版印刷技術の発明に匹敵する機械学習の影響力

 日本マイクロソフトが先頃、米国本社の研究機関であるMicrosoft Researchのトップを務めるピーター・リー氏の来日を機に、AI(人工知能)分野において日本の産学官それぞれで第一線の研究者を招いて、同分野の研究開発の現状と将来をテーマにラウンドテーブルを開いた。

 出席したのは、リー氏をはじめ、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授の杉山将氏、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員 機械学習・データ科学センタ代表の上田修功氏、情報・システム研究機構 統計数理研究所 教授の丸山宏氏、産業技術研究所 人工知能研究センター所長の辻井潤一氏、マイクロソフトリサーチ アジア首席研究員の池内克史氏の6人。

左から、情報・システム研究機構統計数理研究所教授の丸山宏氏、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の杉山将氏、マイクロソフトリサーチアジア首席研究員の池内克史氏、米Microsoftコーポレートバイスプレジデント マイクロリサーチ担当のピーター・リー氏、NTTコミュニケーション科学基礎研究所上席特別研究員 機械学習・データ科学センタ代表の上田修功氏、産業技術研究所人工知能研究センター所長の辻井潤一氏

 各氏は機械学習をはじめとしたAI技術の研究開発の現状や、それぞれの取り組みについて次のように語った。

 「AI技術は機械学習を発端に今、実用化に向けて動き出し、人間社会に大きな革命をもたらしつつある。かつてグーテンベルクが発明した活版印刷技術は知識へのアクセスを民主化したが、機械学習はそれに匹敵する影響力があると私は確信している。マイクロソフトでは機械学習について、コンピュータが人間の言葉を理解し、人間と同様の視覚を持ち、人間の代わりに行動するといった3つの観点から研究開発を進めている。とはいえ、今後のポテンシャルから言えば、今はまだまだ初期段階にあると考えている」(Microsoftのリー氏)

 「機械学習とはデータの背後に潜む知識を自動的に発見する技術だととらえている。その学習方法としては、人間が教師となってコンピュータを学習させる教師付き学習、コンピュータが人間の手を介さずにWebやSNSから学習する教師なし学習、エージェントが試行錯誤を通して学習する強化学習の3つがある。ただ、教師付き学習は、学習の精度は高いがデータを集めるコストがかかる。一方、教師なし学習はコストは低いが精度も低い。そこで私どもではコストが低くて精度が高い強化学習によるアプローチを追求している」(東京大学大学院の杉山氏)

 「私どもでは今、Ambient AI、すなわち環境知能の研究開発に取り組んでいる。この概念は以前からあるが、実際の技術としてまだ確立していない。その背景には、通信会社であるNTTが通信だけではビジネスが成り立たなくなってきている現状がある。そこでヒト、モノ、コトの流れといった広い意味でのトラフィックを対象に、時空間多次元集合データ分析を行う技術の開発に注力している。この技術を実用化できれば、ビジネスにとどまらず広く社会に貢献できると考えている」(NTTコミュニケーション科学基礎研究所の上田氏)

 「AI技術は人間と同じものをつくる方向で研究開発するのではなく、もっと現実的に今非常に手間がかかっているコンピュータのプログラミングを楽にする技術として発展させたいと考えている。その点で機械学習は大いにポテンシャルの大きい技術だ。とりわけ、今後IoT(Internet of Things)が進展する中で無数のセンサーにプログラミングを施すのに、機械学習が大きな役目を果たすのではないかと見ている」(情報・システム研究機構の丸山氏)

 「私どもでは基本的に人間の知能と親和性の高いAIをつくり、それが人間に寄り添ってしなやかに助けてくれるような技術を生み出したいと考えている。今AIと言うと機械学習の話題が中心になるが、もう少し広いコンテキスト(文脈)でとらえたほうがいいだろう。その観点で言えば、コレクティブインテリジェンスという動きもある。ITに代表される技術がコモディティに使われるようになり、その上で情報や知識が素早くインテグレートされていくことを指す。この動きとAI技術の相乗効果にも注目したい」(産業技術研究所の辻井氏)

 「AI技術の研究開発はかつて完全自動化を追求し過ぎてうまく行かなかった経緯がある。その反省に立って、例えば10%は人間が介在するような『90%AI』を目指すべきだという論議もある。私どもはAI技術を活用したロボットの研究開発を行っている立場から、人間が持つ暗黙知や経験知をどのように適用していくかも重要なテーマだと考えている。その意味では広い視野でAI研究に取り組んでいく必要がある」(マイクロソフトの池内氏)

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