「君たちはPCと机に向かうな」 ダイハツのIT部門が現場に飛び込んだ理由(1/3 ページ)

自動車製造業のIT部門が、机に向かっているのは間違いだ――。社長の言葉を受けて、ダイハツの情シスは“インフラ運用部隊”と現場に飛び込む“遊撃隊”に分けられた。IT部門の存在意義とは何か。試行錯誤を繰り返す中で、ダイハツがたどり着いた答えとは?

» 2016年03月18日 09時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

 「君たちはPCに向かうのが仕事ではない!」「机に向かってペンを持ち、データを入力する姿は間違っている」

 軽自動車を中心に豊富なラインアップをそろえる、自動車大手メーカーのダイハツ工業。日本の自動車会社で最も古い歴史を持つ大企業だが、同社のIT部門で今、大きな変革が起きている。そのきっかけとなったのが、2012年の冬に社長が放ったこの言葉だ。

 現場とともに自らが汗をかき、実務を通してシステムを企画せよ――。社長の言葉をこのように受け取ったIT部門は、翌年春に大きな組織改革を実施。組織をシステムの企画や開発を現場密着で行う「現場IT」部隊と、インフラの構築や運用、標準化を行う「オフィスサポートセンター」部隊の2つに分けたのだ。

 IT部門の存在意義とは一体何か? ここからダイハツの試行錯誤の日々が始まった。

photo ダイハツ工業のWebページ。軽自動車「タント」をテレビCMで見たことがある方も多いだろう(出典:ダイハツ)

IT部門への期待は“業務改革”、しかし……

photo ダイハツ工業 オフィスサポートセンターICT課長 朝田卓麿さん。3月に行われた「データマネジメント2016」で講演を行った。同社の情報システムを20年以上見ている大ベテランだ

 ダイハツIT部門の歴史は1980年代までさかのぼる。当時の組織名は「経理部電算課」で、財務会計を処理するシステムを運用する部署だった。1990年代に入ると、その名前は「情報システム部」に変わり、サプライチェーンマネジメントや販売、品質保証、CRMといった情報システム全般を企画開発、運用する業務を手掛けるようになる。

 この情報システム部が転機を迎えたのが2000年代。部署名が「BR・IT推進部」、そして「BR推進部」と変化したことだ。BRとは“Business Reform”、つまり業務改善という意味で、親会社のトヨタ自動車が使っていた言葉だった。社内外の業務プロセスを俯瞰し、業務改革を行うことへの期待から付けられた部署名だったが、これには大きな衝撃が走ったという。

 「今まではシステムを運用し、ミスなく回すことがわれわれにとっての“100点”だったわけですが、システムは回して当たり前。業務を改革しないと存在価値がないと突きつけられたようなものでした」(同社 オフィスサポートセンターICT課長 朝田卓麿さん)

 そうして、業務改革を行う組織に生まれ変わったはずのIT部門だったが、大きな壁にぶち当たる。業務を変えようにも、業務と情報システムのつながりを説明できる人間が誰もおらず、現場の業務フローが誰も分からなかったのだ。

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