アップルはボクらのプライバシーを本当に守ってくれるの?半径300メートルのIT(2/2 ページ)

» 2016年06月21日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]
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 今回、発表されたiOSの新機能も、積極的にユーザーの出力情報を利用しています。例えばiOSのキーボード「QuickType」は、メッセージのやりとりから「今どこにいる?」というメッセージを自動的に判定し、“自分の位置情報という出力”を元に、相手にマップを送ることを提案したり、メッセージ内の単語からデバイス内のユーザー情報を取得し、考えられる返答を自動的にサジェストするなどのデモが行われました。

Photo 「点心」「日曜日」「11時」「スペア通り」の文字から、カレンダー内の予定に登録するというアクションを起こすデモ

便利な機能のために個人情報を差し出せるか?

 これらのデモはとても興味深いものですが、メッセージや連絡先、カレンダーといった情報はセンシティブな個人情報です。さまざまなサジェストをしてくれるのは大変便利ですが、その代償として「プライバシーを差し出す」べきなのでしょうか。

 アップルは今回、「新OSはユーザーにとって利便性の高い機能を開発できる」というデモを行った後に、「開発者は素晴らしい機能と“プライバシー”を利用者に提供すべき」というメッセージを発し、そのために必要な機能をOS側で提供することを明らかにしました。

 iOSでは、メッセージなどのやりとりを「端末から端末までの通信経路も含めて」全て暗号化する機能や、高性能化した端末内部でデータを処理する仕組みなどが提供されます。

 さらにmacOSにおいては、ビッグデータ的な統計情報の中から個別の個人情報を推測されないように、あえて“ノイズ”を入れる技術「Differential Privacy」(差分プライバシー)が導入され、プライバシーを意識したアプリを開発が可能になります。これは恐らく、FBIから受けたロック解除依頼を突っぱねたことも大きく関係していたのでしょう。

 私は今回の発表で、アップルのプライバシーに対する本気を垣間見た気がしました。もちろん、こういうメッセージが企業から出たことでよしとするのではなく、本当にそれが実行されているかを注視することも重要でしょう。「我が社はプライバシーを重視し、悪いことはしません」ときれい事を言いながら、裏では個人情報をせっせと収集するということもできてしまうからです。残念ながら、こうした事態が実際に起こっているかどうかは、普通の人にはなかなか判断がつきません。

 デジタル時代のプライバシーの確保は一筋縄ではいかないもの。皆さんの手元にあるスマートフォンから、便利さとプライバシーのバランスを考えてみてはいかがでしょうか。

著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

デジタルの作法 『デジタルの作法』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

筆者より:

2015年2月10日に本連載をまとめた書籍『デジタルの作法〜1億総スマホ時代のセキュリティ講座』が発売されました。

これまでの記事をスマートフォン、セキュリティ、ソーシャルメディア、クラウド&PCの4章に再構成し、新たに書き下ろしも追加しています。セキュリティに詳しくない“普通の方々”へ届くことを目的とした連載ですので、書籍の形になったのは個人的にも本当にありがたいことです。皆さんのご家族や知り合いのうち「ネットで記事を読まない方」に届けばうれしいです。


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