第27回 ガンダムの「ミノフスキー粒子」がもたらす世界とサイバーセキュリティの共通点日本型セキュリティの現実と理想(2/3 ページ)

» 2016年07月21日 08時00分 公開
[武田一城ITmedia]

機動戦士ガンダムの世界をリアルに見せるミノフスキー粒子

 「ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布!」――。この言葉は、機動戦士ガンダムに登場する戦艦「ホワイトベース」のブライト艦長が、戦闘開始時によく言っているセリフだ。実は、この「ミノフスキー粒子」が、ガンダムの世界観をリアルにしている大きな要因である。ガンダム好きの人たちの間でも、このミノスキー粒子がどんなものかを知らない人は数多くいると思う。まずはそこから解説しよう。

 (あくまでもガンダムの世界で)ミノフスキー粒子は、物理学者のトレノフ・ミノフスキー博士が発見したとされる。この粒子が空間に一定以上の濃度で存在すると、電波や一部の可視光線、赤外線が邪魔をされて伝達できないため、戦場では通信やレーザー、センサーの伝達も邪魔されてしまう。長距離誘導型のミサイルも使用できなくなるなど、この状態にある空間は「Iフィールド」と呼ばれる。

 「Iフィールド」の中では、熱や放射能も抑えられるという特性があり、これによって大きなモビルスーツやモビルアーマーを動かすことができる「熱核反応炉」が誕生したという。また、「メガ粒子砲」と呼ばれるガンダムの世界で最も有名なビーム兵器も、この「Iフィールド」を圧縮することによって実現し、巨大な白馬のような形状をしたホワイトベースは、宇宙空間のみならず重力のある地球の空も飛べるのだという。

 こうしたガンダムの世界における設定は本当によくできたもので、ミノフスキー粒子という架空の物質に基づくロジックが、人型ロボット兵器の活躍を可能にしてガンダムの世界にリアリティを持たせている。

ミノフスキー粒子とサイバーセキュリティの類似点

 ここまでガンダムに登場するモビルツールやミノフスキー粒子について解説してきたが、「いったい、セキュリティの話とどんな関係があるの?」と読者の皆さんは思われるかもしれない。しかし筆者は、代表的な国民的アニメの1つであるガンダムの世界観が、現実世界とサイバーの世界の対比構造を理解する上で参考になると考えている。

 サイバー空間やそこでの戦いは、これまでの現実世界における兵器や防御の仕組みでは対応できない。なぜなら、サイバーの世界では地球の裏側にいる人間が、海も国境も越え、平気で筆者や読者の皆さんを取り巻く「情報」を見たり聞いたりし、窃取や破壊などもできてしまうからだ。

 さらにいえば、ITの世界におけるセキュリティなら、攻撃から守るべきものは「情報」だからまだ良い。今後本格的なIoTの時代になれば、現実に形のある機械の制御までが攻撃対象にされ、大型の工場設備や読者の皆さんが利用するエレベーターや自動運転車などが攻撃を受け、命の危険にされるようになる。つまり、IoTの本格的な普及がなされるようになるとサイバー空間と現実世界が融合する。自分はITに疎いし、コンピュータもスマホぐらいしか使わないから関係ないとは言えなくなり、ITの利用が日常そのものになるのだ。

 現代では、サイバー空間が陸・海・空・宇宙に続く「第5の戦場」といわれ、これまでの地球と宇宙を含む現実世界でのセキュリティ対策がほとんど通用しない。つまり、サイバー空間では、攻撃に対する現実世界の防御(セキュリティ)がほぼ無効化されるということを示している。

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