第27回 ガンダムの「ミノフスキー粒子」がもたらす世界とサイバーセキュリティの共通点日本型セキュリティの現実と理想(3/3 ページ)

» 2016年07月21日 08時00分 公開
[武田一城ITmedia]
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ミノフスキー粒子で戦力を無効化したジオン公国

 ガンダムの話をもう少しだけ続けよう。この世界では、圧倒的な国力を持つ「地球連邦政府」が存在する。そこに、宇宙空間に築かれた「スペースコロニー」に住む移民の国家「ジオン公国」が戦争を挑むというがガンダムの最初の話だ。連邦政府の領土は地球全部と大半のスペースコロニーであり、ジオン公国はたった1つのスペースコロニー群「サイド3」しかない。ジオン公国の国力は、連邦政府の30分の1以下だという。

 この状況下で圧倒的弱者のジオン公国が連邦政府に戦争を挑もうというのは、あまりにも無謀だ。ジオン公国と連邦政府の戦いは「一年戦争」と呼ばれ、最終的にジオン公国は敗北するが、その主たる敗因は主人公アムロの乗るガンダムの活躍という想定外の要素によるものが大きい。しかし、元々ジオン公国には勝算があって連邦政府に対する戦争を起こした。勝算の根拠が先述したミノフスキー粒子である。

 ガンダムの世界でも、ミノフスキー粒子が登場する以前の兵器の主役は、宇宙戦艦同士の撃ち合いだった。しかし、ミノフスキー粒子が宇宙戦艦のセンサーや長距離ビーム、ミサイル誘導といった手法を無効化した。ここで再登場するのが、先ほどの「ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布!」というセリフだ。濃密なミノフスキー粒子が存在する空間では、人間がモビルスーツに搭乗して有視界で格闘戦をしなければならなくなった。だからジオン公国は、連邦政府に先駆けてモビルスーツのザクを量産し、その後も多くのモビルスーツを作り続けた。

 ミノフスキー粒子によってそれまでの戦力のほとんどを無効化し、量産したザクによって物理的に破壊することで、連邦政府との圧倒的な国力の差をひっくり返してしまった。しかし、元々の国力に圧倒的な差があるので短期で勝負を決しないといけない。――これがガンダムの「一年戦争」開始時期における構図である。

機動戦士ガンダムの「一年戦争」における地球とスペースコロニーの関係

サイバー空間も従来の防御を無効化する

 ジオン公国がミノフスキー粒子や「ザク」によってそれまでの戦力を無効化したように、サイバー空間でも現実世界における国境や経済力、軍事力や物理的な距離などが無効化され、世界のどこからでも攻撃が自由にできるようになった。危険な攻撃をする人々が隣でも地球の裏側でも、その攻撃の威力や受けるリスクは変わらないのだ。このようなサイバー攻撃を受けている構図は、連邦政府とジオン公国の関係にも当てはめることができるのだ。

 高度な技術を有するサイバー攻撃者は、一定レベルのスペックを備えるPCやサーバー、通信を確保できれば、現実世界での経済や軍事などの国力に関わらず、例えば、大きな富を持つ先進国に対してでも、どこからでも堂々と戦いを挑むことができる。

 現実世界では数千〜数万キロメートルある距離があれば、物理的な攻撃を受けるリスクをほとんど意識しなくてよい。しかし、距離などはサイバー空間では全く意味をなさない。これは国際的なテロリストのような危険な人々が目と鼻の先にいる状況だ。そして、それに気づくことしかできないというのがサイバー空間の本当の怖さなのだ。

 現実世界は、全人類が平等というような理想的な状況ではない。そのため、時には、貧しい人々が犯罪行為であるのを承知で、富を求めてサイバー攻撃を行うことも起こりうる。サイバー空間では距離の移動などは必要ないので、現実の世界で強盗や詐欺をするよりも、効率的に貴重な情報を盗ることができると考える人がいるかもしれない。

 その結果、経済などで勝てない人たちの抵抗と反乱がサイバー空間で起こり、場合によっては、ガンダムの「一年戦争」の規模を超える大きな被害を発生させる可能性も否定できないのではないだろうか。

 ガンダムの世界では、ミノフスキー粒子によって有視界による戦闘になったことは既に述べた。しかし私たちのサイバー空間では、何らかのシステム的な機能によって状況を可視化する以外には、そのほとんどを目で見ることができない。つまり、攻撃されていることにすら気づかないのだ。このことは、このサイバー空間での戦いやセキュリティ対策が、ガンダムの世界よりも難しいということを示唆している。

 だから、サイバーセキュリティに一番に大事なことは「気づく」ことである。気づくためには、システムのログ解析による可視化や予兆検知などが必要だが、それ以上に世の中で有効といわれている最低限のセキュリティ対策を実施することはもとより、「守りたいものが守られているのか」をきちんと知ることが最も重要だ。そのためには、やはり「守りたいものが何か」を定義し、それ以外のモノ(情報)と区別する。それを整理し、守るべき情報の管理を厳密にすることが重要だ。

 それでも、サイバー空間とそこで起きる攻撃は目に見えないが、守るべき情報の範囲を明確に定義することで、アクセス状況や更新履歴などを解析して可視化できるようになり、守りやすくすることは可能なのだ。


 今回は、ファンの多いガンダムの世界を例に挙げながらセキュリティの状況を解説してきたが、より深くセキュリティについて理解をするなら、やはり専門的に学ぶか、良書と呼べる書籍もたくさん書かれているので、それを読んでもう一歩理解を深めていただきたい。

 なお、せっかくなので次回はもう一度ガンダムの世界を例に解説してみたい。ガンダムの第1話では、アムロが連邦政府の最新兵器であるガンダムを勝手に操縦し、連邦政府にとっては「盗まれた」という状況が描かれている。このストーリーもまたセキュリティの世界を理解する大きな手掛かりなるのだ。

※出典:「機動戦士ガンダム」は株式会社サンライズ制作のアニメーションです。

武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社日立ソリューションズ

1974年生まれ。セキュリティ分野を中心にマーケティングや事業立上げ、戦略立案などを担当。セキュリティの他にも学校ICTや内部不正など様々な分野で執筆や寄稿、講演を精力的に行っている。特定非営利活動法人「日本PostgreSQLユーザ会」理事。日本ネットワークセキュリティ協会のワーキンググループや情報処理推進機構の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会などでの講演も勢力的に実施している。

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