第28回 アムロにガンダムを持ち出された地球連邦みたいにならないための機密情報管理術(前編)日本型セキュリティの現実と理想(1/3 ページ)

「機動戦士ガンダム」は最新兵器のモビルスーツの盗難、不正使用から話が始まる。今回は主人公のアムロがガンダムをなぜ持ち出せたのかを例に、機密情報の定義やどう守るべきかを考察したい。

» 2016年08月04日 08時00分 公開
[武田一城ITmedia]

ガンダムが持ち出された背景とは?

 アニメ「機動戦士ガンダム」の第一話「ガンダム大地に立つ!」では、主人公のアムロがジオン公国による急襲の最中に、地球連邦の新型モビルスーツのガンダムを持ち出して戦うシーンが描かれている。まずはこの状況に至った背景から説明してみたい。

 ガンダムでは、地球に収まりきらなくなった人類が、宇宙に建設した巨大なスペースコロニーへ移民し、それから50年以上の月日が経った世界が舞台だ。この第一話は、地球から最も遠いスペースコロニー「サイド3」の移民がジオン公国を名乗り、統一政府である地球連邦に対して独立戦争を開始した。そして、たった1カ月ほどの戦禍で総人口の半数が亡くなるという悲惨な状況下がその場面だ。

 アムロが住むのは、辺境の地球連邦領のスペースコロニー「サイド7」だ。戦時下でも人々が日常生活を営んでいたある日、敵であるジオン公国の軍人が潜入する。その目的は、地球連邦の最新モビルスーツ開発の真偽を確かめる諜報活動であり、さらにはサイド7へ入港した新鋭艦「ホワイトベース」とモビルスーツの合流を阻止することも狙っていたようだ。

 しかし結果的には、ジオン軍兵士の暴走もあって多くの人の生活の場で戦闘が始まり、民間人にも多くの犠牲者も出す事態となってしまった。そんな中で、開発されたばかりのガンダムに、偶然にもアムロが乗り込み、ジオン軍を撃退する。その後、読者の皆さんもご存じのアムロとガンダムの活躍のストーリーが続く。

日本型セキュリティ 機動戦士ガンダムの「一年戦争」における地球とスペースコロニーの関係

少年にたやすく利用されてしまう機密情報の管理体制

 本連載の第18回に対して読者のTwitterで盛んに言われていたのは「ガンダムが少年に盗まれている時点で論外」というコメントだ。今回は、この理由や背景などを深掘りしてみたい。

 ガンダムの第一話の時点でこの世界は戦争の最中であり、総人口の半数を失ったという状況だ。そして前回に述べた「ミノフスキー粒子」によって、地球連邦の主力でもある既存の宇宙戦艦や巡洋艦という戦力のかなりの割合が無効化され、接近戦と格闘戦によるモビルスーツの戦いに移行している。連邦政府はこのモビルスーツの開発や実戦配備にジオン公国の後れを取ってしまったがために、国力が30倍も大きいに関わらず劣勢となっているのだ。

 そこで、地球連邦は敵国よりもはるかに高性能の新型モビルスーツの試作機を開発し、ガンダムを完成させた。このような戦況を一気に変える可能性のある重要機密が、通りすがりの子供のアムロに持ち出されてしまったのだ。この時のアムロの有名な台詞が「こいつ、動くぞ!」である。敵のモビルスーツから自分を守るために行為に及んだとはいえ、自ら乗り込んでおいて「動くぞ!」もないだろうが、本人も乗り込んですぐ動いてしまうことに驚いてしまったのだろう。

 とにかく、このように重要機密であるはずの兵器が簡単に持ち出されてしまった。これでは地球連邦の機密管理に問題があったことは否定しようがないだろう。

 ガンダムを持ち出したのがアムロだったため、“けがの功名”のように後の活躍や戦争の勝利にも直結した大きな事件だったが、それは結果論である。これが敵国に持ち出されたのだったなら最悪の結果になる。もし、潜入した敵国の軍人の到着がアムロより数分早かったら、その人物はモビルスーツのパイロットでもあったのだから、簡単にガンダムを持ち去られてしまったことは容易に想像できる。

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