FinTechブームに踊らされる残念な金融機関の実態ハギーのデジタル道しるべ(2/2 ページ)

» 2016年09月16日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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 その金融機関で筆者は、ピンポイントでコンサルティングの作業を行っていたが、前回の記事でも指摘したように、システム担当者は残念ながらFinTech、IoT、ブロックチェーンなどについて論理を熟知していないのだ。まるで「猫に小判」である。今までも時折顔合わせをしているが、一緒に議論できる職員はいないらしい。

 筆者としては、そもそもこの金融機関がFinTechの導入を前提にしたこと自体に、大きな問題点があると感じざるを得ないのである。

 結局のところFinTechは、数ある収益向上策の1つであり、事業の幅を広げる対応策の1つであり、もしくは経費を節約する術の1つに他ならないのだ。そのためのツールの導入を前提にしていては、プロジェクトがうまくいくはずがない。

 要は目的が不純過ぎるのだ。もっと視野を広げ、FinTechというものが自社の属する業界を崩壊しつつある姿を直視しないといけない。大地が地殻変動を起こし、自分たちは地割れとともに海の中に身を没している中にあることを肌身で感じなければならない。

 もっと謙虚に、もっと真面目にFinTechというものへ立ち向かい、対応策について新しい考えや新しい論理をもたないといけないのだ。「融資条件が全て不適格でも、どうやって焦げ付きを減少させるか」「どうやって高い回収率を継続していくか?」という従来の考えではダメである。ライバルは同じ県の銀行や信用金庫、メガバンクといったものではない。AmazonやGoogle、Square、PayPalといった企業であることを痛切に感じ取り、理解することが、唯一の救いの道だ。

FinTechの世界における競争相手は“地元”ではなく“世界”になる(写真はイメージです)

 金融業界は、FinTechが戦前からの金融のビジネスモデルを既に崩壊させ始めていることに気が付かなければならない。ただ、昔ながらのビジネスモデルを続けるのも1つの判断だ。ある集計では60代以上の4割が銀行などの窓口でしか対応できないと答えている。そこに注目してニッチな顧客を取り込むのも、金融機関が生き残る1つの方法だろう。

 いまは、FinTechにどっちつかずの対応している金融機関があまりに多い。そして、FinTechを推進する金融庁の顔色をうかがいながら、対応のかじ取りとしているのでは、非常にまずい結果にしかならない。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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