しかし、iPhoneの使用は許しても、アプリについては、Microsoftが提供する個人・法人向けのクライアントアプリであることが前提だ。「Microsoft Office」アプリは、iPhoneやAndroid向けにも提供されており、Microsoftの社員も日々の業務で活用している。そして、これらのデバイスのセキュリティと管理体制を徹底し、そこにもMicrosoftのサービスなどを活用している。
また、個人所有のiPhoneを使って開発されたiPhoneアプリ向けにも、品質向上テストプログラムなどを実施しているという。
実は、ここにMicrosoftのモバイル戦略の基本的な姿勢が示されている。
米国時間の2016年11月30日に開催された年次株主総会で、米Microsoftのサティア・ナデラCEOは「われわれはモバイル製品への注力を止めることも、ペースを落とすこともしない。今後なすべきことは、われわれが違いを見せつけられる分野へ注力することである」と前置きし、「さまざまなデバイス向けにMicrosoftのソフトウェアを提供することが重要である。Windows Phoneユーザーへのサポートを縮小するようなことはしないが、同時により大きなシェアを獲得しているモバイル製品のプラットフォームがあることも認識している。われわれはそこに向けてMicrosoftのソフトウェアを提供する重要性を認識しており、今後一層、このアプローチをとっていく」としている。
デバイスよりも、アプリ・セキュリティ・管理でビジネスを展開するのが、Microsoftのモバイル戦略の肝なのだ。
では、今後もMicrosoftからスマートフォンは発売されないのだろうか。
実は、ナデラCEOは同年次株主総会で、株主の質問に答える形で「モバイル製品については、他社と違いを持った機能や差別化できる形態で投入できないか、という点に努力を傾け続ける」と発言している。差別化できるハードウェアが開発できれば、再びMicrosoftからスマホが登場する可能性があると示唆されているようにも受け取れる。
2016年12月8日に中国深セン市で「WinHEC Shenzhen 2016」が開催され、そこでMicrosoftは、Qualcommとのパートナーシップを通じて、「Windows 10」をARMアーキテクチャに対応させると発表した。これが推進されれば、PCにもスマホにも分類できないようなWindows 10デバイスが登場する可能性がある。Microsoftでは、これを「Cellular PC」と表現。このカテゴリーの製品が広がれば、近い将来にはWindows 10 Mobileというエディションすらなくなり、Windows 10という1つのエディションで、現在のスマホの領域すらカバーする可能性もありそうだ。真のユニバーサルプラットフォームの実現にもつながることになる。
こうした動きを俯瞰してみると、気になるのは、開発がうわさされる「Surface Phone」の存在だ。
低価格モデルのイメージが強い印象を持っていたLumiaは、Microsoftのスマートフォンビジネスとしては成り立ちにくかったが、仮にSurfaceの事業戦略の一環で新たなモバイルデバイスがラインアップされるのであれば、この流れにも合致する。
米Microsoft マイクロソフトデバイス担当のブライアン・ホール コーポレートバイスプレジデントは、「Surface Studio」や「Surface Dial」といったこれまでにない領域の製品を投入したことに触れながら、「今後もSurfaceのラインアップは拡大してくことになる」と語った。
その中にSurface Phoneが含まれるかどうかについては言及を避けたが、現在Microsoftが推奨しているElite x3のように、デスクドックやノートドックの活用によって、デスクトップ・ノートブック・タブレット・スマートフォンという4つのデバイスを1台に統合した用途の提案ができる新たなカテゴリーの製品が創出できれば、話は別だ。
新たなカテゴリー創出という切り口が明確に打ち出せるのであれば、Microsoftのスマホ投入の可能性はまだ残されているといっていい。
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