デジタル時代に考えるべきアナログの感性と情報の使い方ハギーのデジタル道しるべ(2/2 ページ)

» 2017年01月27日 08時00分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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デジタルとアナログの使い方

 目的の情報をピンポイントで入手する場合には、検索性などに優れるデジタル情報が最も早いだろう。一方でアナログ情報は、目的の情報をピンポイントで入手するというより、その周辺にある情報を含めて入手してしまいがちになる。新聞や雑誌で目的の記事を読もうとして、隣に掲載されている全く関係のない記事に、つい興味が向いてしまうようなことだ。しかし情報量は、「目的情報+アルファ」となるアナログ情報の方がデジタル情報よりも圧倒的に多いだろう。

 それでは、両方の情報ソースをバランス良く活用している人は、なぜ洞察力に優れているのだろうか。筆者は、「直線的な情報」のデジタル情報と「ごった煮状態の情報」のアナログ情報がほど良く混ぜ合わさると「とてもおいしい情報」になるのでは――と考えている。

 余談になるが、例えばその昔、音楽を入手する方法はほとんどレコードだった。「ドーナツ盤」と呼ばれるレコードには、ヒット曲とその裏面(B面)に同じ歌手の別の曲があった。「抱き合わせ販売」にも近いものだが、「B面がどういう曲か?」というおまけ感覚の聞く楽しみがあった。しばらく聴くと、表面のヒット曲よりB面のマイナーな曲が方が好きになるということが往々にしてあり、かなり楽しめるものであったこれは「ごった煮状態の情報」のアナログ情報の典型例といえるだろう。

 また書店では、本のタイトルを隠して帯に感想や特徴だけを表示して陳列するケースがある。本の購入はある意味で究極の一点買いだ。本のタイトルを隠されることは購入客にとって怖いが、感想や特徴だけを見て「むしろ読んでみようか」と意識してしまう。売り手のその発想はすばらしく、結果は好評だという。

 これらは、デジタルにはない感性だ。デジタルの情報は、あくまで対象物をピンポイントで探すことや利用することに長けている。そこに紐付くキーワードもはっきりとしており、ぼやけたものはない。

 しかし人間には、そのぼやけた要素に「快い」と思う感性がある。デジタル全盛のこの時代に、この感性をうまく取り入れたと思われるビジネスが出てきた。大手レンタルショップのTSUTAYAが始めた「Notジャケ借り」である。

 作品のタイトルを隠し、感想だけを記載する。「オチが2通り存在するダークファンタジー」とか、「大切な人のためなら何をしてもええんのか?」などの感想メッセージが並んでいるだけなのに、顧客はこれを見てレンタルするという。

 恐らくレンタルされる作品のほとんどが「新作」であり、「旧作」は全く見られないのだろうが、「旧作」の中にある本当に素晴らしい名作を顧客にぜひ見てほしいという企業側の願いと、商売としても「旧作」の回転率をアップできるという点で、とても良い発想ではないだろうか。

 筆者は、この発想もデジタル優先の感性からは出てこないだろうと思う。デジタルに侵された頭脳だと、「そんな回りくどいことをせず、タイトルをきちんと書きなさい」という発想をしてしまうのではないだろうか。そこには古からアナログの感性に慣れ親しんできた“生物としての本質”が抜けてしまっているような気がしてならない。

 デジタルが持てはやされる時代にこそ、アナログを「余計な情報」「くだらない情報」と考えず、まずは「清濁併せ呑む」精神で頭脳に取り込んでみてはいかがだろうか。まさしくデジタルとアナログの「ごった煮」から、「とてもおいしい」、新しいものを創造できるに違いない。それは設計者や技術者、芸術家のような創造的立場の人に求められる基本的な姿勢でもあるだろう。

 現代の若者に「想像力がない」「洞察力が不足している」という遠因には、「ごった煮」のアナログの一部を切り取ったデジタルへの依存があるのかもしれない。だからこそ、アナログの本質を見極め、その良さを取り込めるようにしたいものだ。「今の時代、アナログなんて非効率」と思うようなことが、実は魅力あるモノ・コトにつながるのではないかと感じる。

デジタルもアナログも使いこなせますか?(画像はイメージです)

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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