アイデアを募るだけでなく、実際にデータを活用して何ができるかを確認するために、さまざまな“実験”もしている。その1つが「JR東日本」アプリだ。
JR東日本アプリは、235万ダウンロード(1月31日時点)されているスマートフォン向けアプリで、iOS版とAndroid版を用意している。鉄道の運行情報が見られるアプリはよくあるが、JR東日本アプリは列車の現在の走行位置を路線図上に表示し、遅れがある場合は列車ごとの遅延時間を分単位で確認できたりする。
さらに、「実験に参加する」というタブでは、山手線の混雑統計情報を公開し、何両目の車両がどの駅でどれくらい混むか、曜日と時間帯ごとに調べることもできる。こうした機能は、列車の状況をモニタリングしているデータを元に実現している。
空調の温度設定も、データで管理している。例えば外回りの山手線の場合、新宿駅からたくさん人が乗ることが統計的に分かっているため、2駅手前の原宿駅から冷房を自動的に強くし、新宿駅で多数の人が乗ってきても適温が保たれるような工夫をしている。これまでは、人が増えて車内温度が上がると冷房が強くなり、温度を下げるといった対応をしていた。しかし、これでは乗客から「冷房が効いていない」という苦情が入るのだという(夏場はこうした苦情が非常に多いそうだ)。
マーケティングだけでなく、オペレーションやメンテナンスの面でも、データ活用を進めている。
JR東日本は、経費の約3分の1をメンテナンス費用が占めるほど、安全・安心な運行のための点検業務にリソースを割いている。しかし、検査は3カ月に1回など、期間を区切って行っているのが現状で、特殊な設備を使う場合は深夜や営業列車を止めて実施する必要がある。しかし、これを「営業列車を止めずにできないかと考えている」と横山氏は言う。
それを実現する仕組みが、山手線の新型車両、E235系に搭載されている。3号車のパンタグラフの隣に、架線(架空電車線/トロリー線)のモニタリングを行うための、パンタグラフ衝撃測定装置や、紫外線検出式離線測定装置を搭載しているのだ。また、4号車には線路の状態をモニターする装置も備え、レールや枕木のゆがみなどを計測できる。
これらで何をしているかというと、利用客を乗せて走りながら、架線の状態や線路を押さえるボルトの緩みなどを検査している。今までは、人間が歩きながら検査をしていたが、これらの装置を使うと、計測数値と写真、位置情報などを記録でき、架線の劣化度合いや線路のゆがみなどをデータとして収集できる。連続してモニタリングすることで、異常の検出ができるのはもちろん、「1番のメリットは劣化の度合いが分かり、交換すべき時期の予測ができること」だと横山氏は言う。
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