ユーザーの言いなりになるのがメーカーの仕事ではない失敗しない「外資系」パッケージソフトとの付き合い方(1/3 ページ)

外資系パッケージソフトの導入で失敗しないための方法を解説する本連載。パッケージソフトウェアを導入する際に陥りやすい落とし穴を紹介しています。今回はソフトウェアのバージョンアップのお話。現行バージョンをできるだけ使いたいというニーズ、特に日本だと多い話のようですが……?

» 2017年04月17日 11時30分 公開
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 突然ですが皆さんは、自分が好きなゲームの新しいバージョンが出たら、すぐにプレイしたいと思いますか?

 あるいは自分が好きな作家の新刊や、好きなミュージシャンの新曲などが出た場合、どうでしょうか。早くプレイしたい、読みたい、聞きたい、と思いませんか。ワクワクして試してみようと思う人が多いのではないかと思います。

 しかし、それがエンタープライズソフトウェアの世界では一変します。「試してみよう」というマインドを好まない方が少なからずいるのです。今回は、そんな“よくある”一例を取り上げたいと思います。

失敗事例16:延命でもいいから、現行のバージョンを使いたい

ソフトウェアの運用責任者A:このたびは、ソフトウェアのバージョンアップについて報告をいただきありがとうございます。今使用しているバージョンは、来年末にはサポートが終了するそうですね。ちょうど来年度の予算申請の時期なので、費用の算出などにご協力いただければと思います。ところで、新バージョンでは新機能が大幅に拡充されることが分かりましたが、反対に旧バージョンからの移行で制約はないのでしょうか。

ソフトウェアメーカーの担当者B:アーキテクチャを大幅に刷新しておりまして、従来手動で行っていた監視マップの描画が自動化され、手動でのマップ作成が廃止されました。その機能をお使いの場合は、留意いただければと思います。

A:それは困ったな。あの機能は重宝しておりまして、運用メンバーにも監視の状況が一目で分かると好評なのです。うちにマップ描画の職人がいましてね、ほぼ専任でその管理を任せることで、高いサービス品質を維持しています。自動作成のマップは、今のマップに近い見た目になるのでしょうか。

B:いえ。描画方法そのものが変わりますので、見た目や操作方法は変わります。自動なので、監視対象の配置も完全にソフトウェア任せになります。

A:この機能はかなり使い勝手が良いと思っていましたが、なぜ廃止されるのでしょう?

B:市場環境の変化が大きな理由です。近年、クラウドのような流動性の高い環境をいかに効率的に管理するかが、多くの企業で課題となっております。手動での管理はもはや限界があり、それを自動化して提供することになりました。

A:確かに他の顧客ではそのような状況かもしれませんが、うちはまだまだオンプレ重視で、クラウドを積極的に使う方針もまだありませんから、できれば従来の機能をそのまま使い続けたいのですが。

B:承知いたしました。そのようなお客さまのために「延命プラン」を用意しています。通常の年間保守費用よりは高くなりますが、最低限、不具合に対するパッチの提供は行われます。その代わり、先ほど申し上げたような新機能は一切使えなくなりますが、それでもよろしいでしょうか。

A:うちは安定運用第一ですから。使う予定がない機能より、当然今使用している機能を優先すべきでしょう。それに、その方がバージョンアップ作業にかかる費用も発生しないからよさそうじゃないですか。

B:……承知しました、それでは見積もりを後日お送りいたします。

 いかがでしょうか。一見、ユーザーの要望をかなえる良い提案のように見えるかもしれませんが、実は何も変わっておらず、単にユーザーの支払いが増えただけの結果になっています。このまま数年使い続ければ、恐らく「なぜこんなに保守費用が毎年上がるんだ、契約を見直しなさい」と上層部から指摘されるのがオチです。

 そして、メーカーが巨額を投じて開発したせっかくの新機能を使う権利がありながら、それを放棄してしまっています。なぜユーザーは、このような選択をしてしまうのでしょうか。

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