クラウドシフトで“脱・売り切りモデル”の組織へ 大型組織変更に見るMSの覚悟(前編)Microsoft Focus(1/2 ページ)

日本マイクロソフトが、セールス、マーケティング部門を“クラウドによるコンサンプション(消費)”をベースとした組織に再編した。新たな組織体制が今後の日本マイクロソフトのビジネスに与える影響とは? 2回に渡って考察する。

» 2017年08月19日 09時00分 公開
[大河原克行ITmedia]
Photo 日本マイクロソフト 平野拓也社長

 2017年7月1日に始まった新年度から、新たな組織体制がスタートした日本マイクロソフト。14年ぶりの大規模な組織改革によって生まれた今回の新組織は、米国本社が実施した組織改革を反映したものだ。

 本コラムで既に紹介したように、新たな組織体制の基本的な考え方は、セールス、マーケティング部門を対象に、これまでのライセンス販売をベースにしていた組織から、クラウドによるコンサンプション(消費)をベースとした組織への移行といえるものだ。

 「これまではパッチワークのような形でクラウドビジネスに対応してきた組織を大きく変更させ、モダナイズした。これにより、顧客のデジタルトランスフォーメーションをより積極的に推進していくことができる」と日本マイクロソフトの平野拓也社長は語る。

 新たな組織は、今後の日本マイクロソフトの方向性を示す上で重要な意味を持つ。そうした観点から、新組織について2回に渡ってじっくりとその方向性を探る。

日本マイクロソフトの存在感を高め、顧客への価値提供を最大化

 本題に入る前に、時計の針を14年前にまで戻し、当時の日本マイクロソフトで行われた組織変更の骨格を振り返ってみよう。

 2003年7月1月付で、日本マイクロソフト(当時はマイクロソフト、以下、日本マイクロソフト)に初の外国人社長としてマイケル・ローディング氏が就任した。このとき、日本マイクロソフトには新たに3つの組織が生まれた。1つはエンタープライズ向け組織、2つ目は中堅中小企業向け組織、そして3つ目はエンタープライズサービスの組織である。エンタープライズサービスは、のちに社長に就任する平野拓也氏が日本マイクロソフト入りして統括する組織だ。

 日本マイクロソフトは、それまでも法人向けビジネスを展開してはいたが、日本独自の組織体制の下で行われていた。それをグローバルの組織体制と共通化し、新たな体制でスタートしたのがこのときだった。

 ローディング氏が日本マイクロソフトの社長に就任する6日前には、「Windows Server 2003」が発表されており、エンタープライズ分野に本格的に打って出るための製品を投入するとともに、グローバル体制による新たな組織が作られたといっていい。同時に、マーケティング部門には、ビジネス・マーケティング・オフィサー(BMO)という職種が設けられ、さらに、ビジネスグループリードと呼ばれるビジネスオーナー制度も導入。これも、世界各国と共通した組織体系の1つであった。

 つまり、14年前の組織改革は、エンタープライズ市場への本格展開とグローバルとの共通化という2つの大きな理由から、新たな組織体制へと転換したものであったのだ。そして、その考え方は2017年6月までの14年間に渡って続いてきたものであった。

 それから14年を経過した2017年7月、日本マイクロソフトは、新たな体制へとかじを切った。

 従来の組織がオンプレミス時代の体制であり、ライセンス販売に最適化した組織づくりであったのに対して、新たな組織はクラウド時代のコンサンプション(消費)に最適化したものになる。エンジニアリング部門は既に3年前にクラウド時代に最適化した組織に再編しており、日本マイクロソフトを含む全世界のセールス、マーケティング部門がいよいよクラウド時代の組織へと再編されたというわけだ。

 2017年8月1日に行った経営方針記者会見で日本マイクロソフトの平野社長は、「日本マイクロソフトが経営方針記者会見を開催したのは、2003年8月が最初だった。今回の組織変更はそれ以来のものになる」と切り出した。

 今回の組織変更は「グローバルの組織再編にのっとったもの」と、日本マイクロソフトの平野社長が言うように、これまでと同様に、グローバル共通の組織体制となっている。だが、平野社長のそう語る言葉には、さらに一歩踏み込んだ意味がある。それは、日本マイクロソフトだけの再編ではなく、グローバル規模での組織再編の中に日本マイクロソフトが大きく巻き込まれている点だ。

 その1つが、新設されたグローバル事業本部である。同事業本部は、トヨタやパナソニックなど、グローバルに展開する日本の企業に対して、それぞれに全世界で担当する営業組織だ。これまでもグローバルトヨタビジネス統括本部といった組織があり、トヨタ向けのビジネスを担当していた。しかし実態としては、日本でのビジネスは日本マイクロソフトが担当していたものの、北米の拠点向けには北米の営業組織、欧州の拠点向けには欧州の営業組織が対応するという、それぞれの現地法人が直轄する仕組みだった。

 今回の新たな組織では、日本マイクロソフトのトヨタ担当の組織から、欧米をはじめとする全世界のトヨタ担当の営業組織を直轄することになり、日本のグローバル企業に対して、日本マイクロソフトから一本化した形でビジネスを行えるようになったのだ。

 このように、日本マイクロソフトにとっては、これまでのようにグローバルの組織体制に合わせるだけでなく、これまでにはない「グローバルの組織再編」の渦に巻き込まれたものになっている。これは結果的に、日本マイクロソフトの存在感を高め、顧客への価値提供を最大化にするには大きな意味を持った組織再編といえるだろう。地域ごとに分割していた日本のグローバル企業への対応を日本マイクロソフトから行えるからだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ