アクサ生命が気付いた「デジタル変革」の核心――それは人とITの“共存”【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/3 ページ)

» 2017年08月28日 09時00分 公開
[大内孝子ITmedia]

 もちろん、テクノロジーに合わせて人も学ばなければならない。アクサ生命は2016年に、営業社員にタブレット端末を配布し、画面上に契約書や約款を提示して、電子署名で契約を完了できるシステム「AXA Compass」を導入した。その際には、約1年をかけて全国に展開。営業部門にユーザーテストを行って、得たフィードバックを基に開発を進めながら、ツールの改善とともにトレーニングを行ったという。

 生命保険だからといって、いきなり「では、データを取るために腕にチップを埋め込みましょう」と言ってもユーザーには受け入れられないだろう。つまり、ビジネスとしては通用しない。これは極端な例だが、時代の変化と顧客のニーズが、技術の進化に対して、どこまでついてきているかを把握するのは難しいのだ。

 「エンタープライズITの場合、既存のエンドユーザーの特徴や傾向を考えずにあまりユニークなテクノロジーやサービスを持つのは、逆にリスキーだと感じています。しかし、社会や文化、技術、そしてお客さまのニーズは今後どんどん変わるでしょう。それらにアジャイル(機敏に)対応できるようになるためには、自分自身がレジリエンス(強じんでしなやか)な体質になっていることがとても重要。これは人もテクノロジーも同じです」(不動さん)

photo タブレットの画面上に契約書や約款を提示し、電子署名で契約を完了できる「AXA Compass」

人とテクノロジーをどう協働させるか?

 人とテクノロジー。どちらかが先に進みすぎても遅れすぎても、その効果は出ない。プロジェクトを進める際には、両者の調和が不可欠だ。AXA Compassでは、IT部門ではなく、営業部門がコストを管理し、プログラム全体をリードする形で開発プロジェクトを進めた。

 ビジネスサイドの要望、つまり人がやりたいことだけを追求すると、要件がどんどん膨らんでしまい、開発の時間も費用もかかる。利便性の高いテクノロジーの導入が必要である一方で、テクノロジーが人に合わせるのは限界があるのだ。

 どこをシステム化し、どこを運用で補うか。単にカスタマイズして機能を増やすのではなく、IT部門と営業部門が話し合い、テクノロジーを最大限活用したオペレーションを設計し、営業とIT部門とで構成されたプロジェクトチームがツールの導入時に営業社員にチェンジマネジメントとトレーニングを計画的に実施する形にした。そのため、社員全体のITリテラシーも高まってきているという。

 同社では、このほかにも、ITサイドとビジネスサイドが協働できるような仕掛けを試みている。プロジェクトが進行している期間中に、関係部署の社員が常駐できる専用の部屋を設置し、同じ部屋の中でそれぞれの仕事をさせるのだ。プロジェクトメンバーの半数程度が、入れ替代わり立ち代わりで常駐する。人数は15人程度だ。

 そうすることで、自然とコミュニケーションが生まれ、お互いに知らないことを教え合い、距離が近づいていった。現在は試験的にいくつかのプロジェクトで試している段階だが、非常に良い結果が得られていることから、次年度以降もさらに増やす考えだという。

 「これだけITの進化が激しい今、ビジネス部門もITのことをよく知っているし、リテラシーも高くなってきている。テクノロジーを使ってどのようにビジネスをリードできるのか、そしてビジネス部門が何を求めているのかをIT部門が知ることが、相乗効果を発揮するための重要なポイントであると思います」(不動さん)

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