100年前のレシピがクラウドでよみがえる――「あずきバー」井村屋の働き方改革創業120年、老舗企業のBox活用(2/3 ページ)

» 2018年06月15日 08時00分 公開
[高木理紗ITmedia]

「完全に検討リスト外だった」Box導入を決めた理由

 社内調査でオンプレミスサーバの容量不足を痛感した同社は、オンラインストレージの導入を検討し始めた。「ランニングコストが安く、暗号化やファイルのバックアップ機能、多要素認証機能など、必要な一連の機能を備える製品」が選定の条件だった。そんな時、同じ三重県内にある企業同士の交流を通じてBoxを知り、導入目的そのものが変わり始めたという。

 「シンプルで使いやすく、容量が無制限な点や、細かい権限設定や柔軟なプレビュー機能が魅力的だった。特に、複数の拠点がある中国でも利用できる点は、導入を検討する上で外せない条件だった」(岡田氏)

 ファイルの共同編集機能やコラボレーション機能など、Boxは明らかに同社が求めていた機能よりも多く機能があり、想定コストを超えるかもしれないという懸念があった。しかし、5年スパンで導入コストを試算したところ、Boxの導入コストは、新たにサーバを購入して旧サーバを置き換えるコストとほぼ変わらなかったという。

 そこで同社では、これを機にセキュリティ要件を担保しつつ、社内業務のペーパーレス化やファイルの共同編集、遠隔作業の実現など、クラウドで社員がより働きやすい環境を作る「働き方改革」に乗り出そうと、Boxの「Businessプラン」とNTTコミュニケーションズのシングルサインオン(SSO)サービス「IDFederation」との連携ソリューション導入に踏み切った。また、社内ネットワークをNTTコミュニケーションズの「UniversalOne」に切り替え、クラウド利用に備えた通信の高速化を行った。

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 多くの拠点が東海〜中部地方の太平洋側にある井村屋グループでは、今後30年間で必ず訪れるといわれる「南海トラフ地震」に備え、災害時の事業継続計画(BCP:Business continuity planning)を刷新する必要があり、この点も導入を後押ししたという。

「Boxって何?」から「便利だから使わなきゃ」に変えるまで

 無事にBoxの導入を果たした同社だが、今まで紙媒体やオンプレミス環境での業務に慣れた社員がスムーズに使えるようになるまでには、さまざまな課題があったという。「当時、ほとんどの社員の反応は『Boxって何?』というものだった。全社でメールへのファイル添付を廃止し、代わりにBoxで暗号化したファイルのURLを共有する方針を決めたが、最初はまるで広まらなかった」と、岡田氏は話す。

 そんな逆境を打開したのは「積極的に使ってくれる部署からの情報発信」および「社用ガラケーからスマートフォンへの全面移行」だった。

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 同社では、頻繁に中国へ出張していた部門が、出張先での資料の共有や遠隔作業などの用途で、積極的にBoxを使い始めた。そこで、同部門に社内向けのBox説明会を実施してもらい、「どの業務にどのようにBoxを活用すれば便利なのか」という具体的な情報の共有を進めた。

 また、従来使っていたガラケーからスマートフォンへの移行も、Box浸透の起爆剤になったという。それまで同社では、社員が手作業で書類をスキャンし、そのデータをサーバで管理していた。ところが、Boxの「Box Capture」を使うことで、スマートフォンで撮影した書類や画像が、自動的に補正されてBoxで共有できるようになり、社員の作業が効率化した。こうした機能が社内に広まり、「便利だからBoxを使うべき」という雰囲気が生まれていったという。

 当初は「Webブラウザでの操作が面倒」「レスポンス速度がオンプレミスサーバより遅い」などの不満を訴えていた社員たちも、デスクトップからフォルダの検索を行う「エクスプローラ」機能を使ってBox内のファイルを検索できる「Box Drive」の導入を機に、Boxを使うようになった。

photo 「Box Capture」のスマホ活用が若手社員を中心に広まったことで、Boxの浸透が一気に進んだという。

 さらに同社は、全国の拠点にある複合機とBoxとの連携に取り組んだ。Box導入を機に、社内の複合機を全て刷新。メーカーのリコーと共同で検証と通信スピードの改善を進め、全国の拠点どこからでも、複合機へログインすれば、Boxで共有したファイルを印刷できるようにした。

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